エネルギー計画と同様、温暖化対策でも現実的な論評を示した日経
◆原発含む冷静な対処
安倍政権は11日に新しいエネルギー基本計画をまとめた。13日には、国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」第3作業部会が報告書をまとめた。これらに共通して関わるのはエネルギー問題である。
15日付の小欄では、増記代司氏がエネルギー基本計画で、脱原発派3紙の朝日、毎日、東京について、「リアリズムに欠け空理空論に酔っているとしか思えない」と指摘し、それに比べて、読売、産経、日経は現実を踏まえた論陣を張っていると評されていた。
その日経は、IPCCが公表した報告書でも、15日付社説で現実を直視した冷静な論調を展開、産経も16日付主張で脱原発に縛られない対応を求めた。
報告書は、温室ガスの排出量が特に2000年以降の10年間に増えているとして、太陽光や風力、原子力などCO2排出が少ない「低炭素エネルギー」の電力供給に占める比率を現在の約30%から50年までに80%以上に拡大するなどの対策を早急に講じる必要があると訴えた。
この低炭素エネルギーの中には、先の記述通り、原子力も含まれている。原子力については、「成熟した低炭素エネルギー」(産経)、「温室ガス排出の少ないベースロード電源だが、さまざまなリスクがある」(本紙など)というのが報告書の評価である。
確かに、原子力には放射性廃棄物の処分問題などもあるが、今回の日経社説が指摘するように、他の再生可能エネルギーも「それぞれに課題を抱える」のが現実である。
だから、そうしたエネルギーの導入を拡大するには、「社会が受け入れやすいよう新たな技術開発や改良に努め、課題を克服する必要がある」(日経)ということである。
◆原発除外する朝・毎
ところが、先の脱原発派3紙のうち、この報告書について社説を掲載した朝日、毎日には、エネルギー計画での論調と同様、次のように原子力をはなから除外する。
「原子力の拡大は、核の拡散や廃棄物処理など別のリスクの深化が避けられない」として「日本のとるべき選択肢ではない」(朝日)
「福島第1原発事故を経験した私たちの責務は、原発に依存しない温暖化対策を推進することだ」(毎日)
毎日も指摘しているが、世界の温室ガス排出量は、途上国が先進国を上回る。それゆえ、毎日は「先進国の取り組みは当然」としながらも、「(今回の)報告書は温暖化対策が大気汚染の削減やエネルギーシステムの強靭(きょうじん)化をもたらすことも示している」として、「中国やインドなど新興国は、こうした観点からも積極的な貢献をしてもらいたい」と促すのである。
しかし、例えば、その中国は原発に積極的である。中国には現在、15基の原発があり、55基の建設が計画されている。そんな中国に、温暖化対策を求めるのならば、それこそ、読売がエネルギー計画についての12日付社説で提案した「安全性能の高い日本の原発」は役に立つはずである。
そうした原発を中国だけでなく他の新興国に輸出することは、毎日が「当然」と指摘した「先進国の取り組み」の一つであり、わが国にとっても国際貢献につながる。それはすなわち、日本の原発および原発技術は国際的にも有用ということである。
産経が指摘するように、「バイオマスなどの再生可能エネルギーや、二酸化炭素を地中に埋めるCCS(炭素回収・貯留)の飛躍的な普及、拡大には時間がかかる。現時点で、低炭素化への貢献が計算できる『成熟した技術』は原子力だけ」であろう。
エネルギー計画に関する社説でもそうだが、朝日は特に再生可能エネルギーの短所やコストの問題には全くと言っていいほど触れない。
◆バランス求めた読売
それとは逆に、読売はエネルギー計画についての社説で、「経済性や供給安定性、環境負荷など、それぞれ長所と短所のある火力、原子力、再生エネにバランスよく分散させることが肝心」であるとし、日経は同様の社説で、さらに安全保障も加えた「複眼的な視点から」エネルギー政策を進めよ、と主張した。
こうした視点は、温暖化対策を進める上でも、忘れてはならない有用な視点であろう。地に足のついた対策を進めることが肝心ということである。
(床井明男)