ウクライナ問題の“ガス紛争”波及、リアリズム欠く脱原発派の3紙
◆露が価格8割アップ
ウクライナ問題は“ガス紛争”へと波及しそうだと各紙が報じている 。
ウクライナは天然ガス消費の6割をロシアに依存しているが、ロシアが供給価格を8割もつり上げ、交渉いかんで供給停止を示唆しているからだ(産経8日付)。欧州連合(EU)もガス消費の約3割をロシアから輸入しており、その半分以上はウクライナ経由だ 。
このままではウクライナもEUも暮らしが脅かされかねない。EUはロシアのクリミア併合に対抗し対露制裁を行っているが、今ひとつ迫力が欠けるのはそのためだという。旧ソ連時代には「ドルージュバ(友好)パイプライン」で東欧が強権支配された。ソ連崩壊後、パイプラインはEUにまで延長されたが、ロシアの野望は相変わらずだ 。
とりわけ東欧諸国がNATO(北大西洋条約機構)やEUに加わろうとすると、そのたびにパイプラインを閉め、何度も“ガス紛争”を引き起こしてきた。それでこれら諸国はロシアの頸木(くびき)から脱そうと原発建設に余念がない 。
事ほどさようにエネルギー問題は安全保障と直結している。エネルギーをどう確保するかは国民の死活問題だ。だから供給安定性と安全性、それに廉価性の三つが必須条件となる。国際社会はそうしたリアリズムで動いている。
◆読産日経は現実強調
では、日本の場合はどうだろうか。安倍政権が中長期のエネルギー政策の方向性を示す新たなエネルギー基本計画を閣議決定した。最大の目玉は民主党時代の「原発ゼロ」方針から脱却し、原子力発電を「重要なベースロード電源」と位置付けたことだ。ベースロードとは昼夜を問わず一日中、安定的に電力を供給することだ。つまり主力電源のひとつに据えた 。
これを原発容認派は「『原発活用』は現実的な戦略だ」(読売12日付社説)と評価する。日経は「現実を見据えて計画を具体化していかねばならない」(同社説)とし、産経は「政府は立地自治体の同意取り付けなど、現実の再稼働を主導する責務を果たさねばならない」(10日付主張)と、計画の具体化へ政府に行動を促している 。
本紙13日付社説は「21世紀のエネルギー事情を見通し原子力文明はかくあるべしと語る指導者、政治家があまりに少ない」と指摘し、原発再稼働に向け啓蒙(けいもう)の重要性を訴えている。いずれも「現実」を強調し、リアリズムを基調とする論陣を張っているのが特徴だ 。
ところが、脱原発派新聞すなわち朝日と毎日、東京の3紙の論調は、国際面での報道とは裏腹にリアリズムを忘れ去ったかのようだ。社説を見ると、朝日は「これがメッセージか」、毎日は「これは計画に値しない」、東京は「原発回帰の危険な道」(いずれも12日付)と酷評している 。
確かに基本計画は原発比率など全体の電源構成を示さず、曖昧な点が少なくない。読売も「電源構成の目標設定と、その達成への工程表を速やかに示すこと」(前掲社説)と注文を加えている。
◆電力料金上げ問わず
だが、朝毎東3紙は「初めに脱原発ありき」で、エネルギーの必須条件を問わず、端(はた)から原発を「危険」と断じ、厳格な安全対策も顧みようとしない。何より不思議なのはエネルギー安全保障をまったくと言っていいほど論じていないことだ 。
エネルギーは安全保障だけでなく、地球環境にも大きな影響を与える。「国連は日本を含む各国に、2020年以降の温暖化ガス削減目標を15年3月までに示すように求めている」(日経社説)との課題もあり、化石燃料に過度に依存できない。だが、3紙の社説はこうした地球環境問題にも触れない。まるで井の中の蛙(かわず)である 。
おまけに国民の暮らしにも論及しない。家庭の電気料金は原発事故前に比べて東京電力が4割、関西電力が3割近くも値上がりし、再稼働がなければ追加値上げも必至だ。庶民や零細企業ほどその痛みは大きい。にもかかわらず、3紙は消費税増税ではあれだけ「痛み」を言っておきながら、こと電気料金では触れようともしないのだ 。
これではリアリズムに欠け、空理空論に酔っているとしか思えない。脱原発派3紙にはほとほと呆れる。
(増 記代司)