世界が注目する日本の鉄道技術、リニア新幹線着工を特集する各誌
◆英国受注に読み応え
日本の鉄道輸送に関する技術は世界でも最高水準にあることはよく知られている。既存の新幹線に代わってリニア新幹線が全国を網羅するのも遠い未来のことではない。加えて、2020年の東京オリンピック開催に合わせて首都圏の再開発が動き始め、それを契機に交通網や輸送体系も変わりつつある。
そうした中で、週刊エコノミストが4月8日号で我が国の鉄道にかかわる特集を組んだ 。見出しも「鉄道の未来」とインパクトのある短いフレーズになっている。内容は第1部が「鉄道ビジネスの現場」、第2部が「鉄道車両の活躍」の2本立てとなっており、同号のなかで、この特集企画にかなりの誌面を割いているのが印象的。第1部ではまず、首都圏と関西圏の主要駅の再開発事業を紹介、また地方においては昨年運行が始まったJR九州の豪華列車「ななつ星」や来年開業予定の北陸新幹線の様子をスケッチしている 。
第2部では世界で活躍する日本の鉄道車両メーカーの奮闘ぶりを描く。中でも日立製作所が12年、世界の中で鉄道ビッグスリーと呼ばれる仏アルストム、独シーメンス、カナダのボンバルディアを相手に英国史上最大規模となる都市間高速鉄道車両プロジェクト(IEP)の受注に成功した記事は読み応えがある。同社の英国進出は今から14年前の1999年に始まる。JRなど国内向けの車両納入に一つの限度が見える中で、さらに車両ビジネスを伸ばすには海外進出しかないと判断。その矛先を鉄道発祥の地英国に定めた。欧州での製造実績がない中で、一つ一つ難題を解決し、05年には、英仏ドーバー海峡での高速鉄道クラス395の車両174両と保守サービスを700億円で受注。そして一昨年のプロジェクトの受注に続く。まさにサクセスストーリーと言っていい 。
高速鉄道車両の製造や保守サービスには高度な技術が要求されるが、同誌は、「円高による空洞化を主因に日本は13年に11兆円という史上最大の貿易赤字に見舞われた。『ニッポン製造業』の生き残るヒントは日立の笠戸(事業所)の取り組みの中にあるかもしれない」と述べている。
◆首都圏化する中京圏
一方、特集の中で鉄道の未来を描くものの一つとしてリニア新幹線を挙げている。早ければJR東海が今秋にも着工し、27年の品川―名古屋間の開通を目指す。開通すれば、同区間が40分で結ばれ、これが大阪までだと67分で到達するというのだから、まさに「夢の新幹線」。建設費も5兆円(名古屋まで)超と膨大だが、経済効果は11兆円近くと試算され、地元経済界は早期実現を期待する 。
ちなみに、隔週経済誌「経済界」は、4月8日号で、リニア新幹線に期待する地元の声を集めた。大村秀章・愛知県知事は「東京―名古屋圏が40分で結ばれると、まさに地下鉄圏内となり、首都圏と中京圏が一体化し、世界でも類例のない人口5000万人の巨大なリニア大交流圏が形成され、愛知・名古屋が人、モノ、カネ情報が行き交う西の拠点として発展していく絶好のチャンス」と力説。中部経済連合会の三田敏雄会長は、「リニア駅のハブ機能を高め中部全体の活性化につなげていく」として中部経済圏のインフラ整備に意気込みを表す。
◆地方にも未来像描け
もっとも、日本国土の新幹線化あるいはリニア新幹線の導入は、日本経済に大きく貢献し、バラ色の未来を期待されるが、負の側面もあることも事実。たとえば、北海道では現在、青森―函館間で北海道新幹線の建設が進んでおり来年度開業を予定している。地元経済界では北海道新幹線の開業で函館周辺に訪れる観光客は50万増加すると期待しているが、その一方で道南域内を結ぶ木古内―江差線が来年5月に廃止されることが決まっている。新幹線の誘致開業の話題が盛り上がる中で、地方の鉄道交通の廃止・切り捨てが進んでいるのも事実なのである。それでなくとも高齢化と地方の衰退が進むなか、地方交通路線の廃止は地方の過疎化を促すことになる 。
週刊エコノミストも地方交通の在り方についても言及し、昨年成立した「交通政策基本法」に地方交通の路線維持を期待している。もちろん、地域が活性化するには交通体系の維持が不可欠だが、豊かな新しい日本像とは一極集中化した都市未来ではなく、緑にあふれた田舎同士の連携と捉えることができるとするならば、そうした地方の未来像を踏まえた交通システムを描く必要がある。
(湯朝 肇)