北方領土、竹島、尖閣を領土と明記した教科書を評価した読売、産経
◆経緯から言及の産経
小学校と高校3年生が来春から使う教科書の検定結果が4日に、文部科学省から公表された。今回の小学校の検定教科書は、学習内容が増えたことに伴い厚くなった。現行の学習指導要領が、学力低下の弊害を受けて「ゆとり」教育の転換にかじを切ったのを継続したもので、ページ数では前回検定(2009年度)の25%に続き今回もさらに9%厚くなった。
その内容と表現も、東日本大震災後の初の検定となり、震災や東京電力福島第1原子力発電所事故、防災教育についての内容がほぼ全ての教科で大幅に増え、日本固有の領土である北方領土に加え竹島や尖閣諸島についての記述が増加。写真やイラスト、図解などの工夫で彩りも豊かに充実したものとなったのである。
この検定教科書について社論を掲げたのは読売、産経、朝日、毎日の4紙(いずれも5日付)。論調の焦点となったのは、これまでの北方領土に加えて竹島や尖閣諸島が日本の領土として明記されたことについてである。日本の教科書が日本の国土・領土について生徒の学習年次に応じた内容で伝え教えることは、当然すぎるほど当然のことだが、実はこれがやや疎(おろそ)かにされてきた。
そのあたりの経緯(いきさつ)については産経(視点=5日付)が、昭和57年の高校教科書検定における朝日などマスコミ各社の誤報(中国・華北への「侵略」を『進出」に書き換えさせた、とする)に端を発することを的確に指摘した。「誤報して以来、中国や韓国が教科書検定のたびに日本に抗議し、両国に過度に配慮した教科書が作成されるようになった」のである。
それから30年余。今回の教科書が竹島や尖閣諸島について政府見解に沿った「固有の領土」などと記述したことは「教科書正常化への大きな一歩といえるだろう」と評価した。同感だ。
◆中韓の主張は「不当」
社論に入ろう。読売・社説と産経・主張は、今回の教科書の島根県・竹島と沖縄県・尖閣諸島の領土記述について真正面から評価した。現行の小学校社会科教科書では、竹島と尖閣諸島を記述しているのは1点だけであり、今回全5社が記述したことは「領土教育の充実に向けた意義ある一歩」(読売)だ。その上で読売は、竹島は韓国が「不法に占拠」、尖閣諸島には(領有主張の)中国漁船が領海侵入を繰り返しているなどの記述についても「いずれも、最低知っておかなければならない事実」だと指摘。「学校での領土教育をさらに進めることが、国際社会で日本の立場の正当性を堂々と訴えることのできる人材育成にもつながろう」と結論付けたのも頷(うなず)ける。
「社会科で竹島と尖閣諸島について全社が取り上げるなど、領土に関する記述が増えたことを評価」した産経は一方で、これまで「領土に関する教育があまり熱心に行われてこなかったことを反省」。領土の学習に関連して、日本の海の安全を守る海上保安庁や東日本大震災の救助活動で活躍した自衛隊の活動を扱う教科書が増えたことを指摘し「公に尽くし、国や郷土を守ってきた先人の努力などを通し、自国について深く学ぶ教育を充実していきたい」と主張を結んでいる。
もうひとつ、両紙の社論は今回の検定教科書に対する中国と韓国の反発についても、明快な見解を表明している。読売は「いずれも、誤った事実認識に基づく、不当な主張だ」「教育は内政問題であり、他国が口を出す筋合いではない」と批判。産経も、自国の領土を正しく教えるのは当然と述べた下村博文文科相の発言を引き合いに「(両国は)反発しているが、いわれのない抗議である」と一蹴した。
◆適切か疑問残る朝日
この点についての言及は朝日、毎日両社説には欠落しているものである。
領土の教育について朝日・社説は「おなじ取りあげるならもっとしっかり書いてはどうか」と書き出す。何やら居直った感じが拭えないが、尖閣を例に「中国は『日清戦争に乗じて奪われた』と主張し、日本は『中国は戦後も1971年まで異議を唱えていなかったのだから、おかしい』と指摘している」という具合に書いたら、と勧める。
だが、小学校の教科書に、最初から領土をめぐる対立を相対、客観的に大人のたたかわす議論そのままに記述することが果たして適切なことかどうか。疑問が残る。
毎日・社説「複眼的思考力を養おう」は、教科書の「領土問題」の記述を「簡略だ」と、断片的にごく簡略に言及しただけ。こちらは肩透かしを食らった感じが残った。
(堀本和博)