児童虐待防止月間 若者に健全な結婚観を
11月は厚生労働省が定めた「児童虐待防止推進月間」だ。今年度の標語公募で最優秀作品に選ばれたのは「189(いちはやく) ちいさな命に 待ったなし」。
児童相談所(児相)の全国共通3桁ダイヤルを入れながら、心ない大人による虐待から無垢(むく)な命を救うためには早期対応が重要であることを訴えた見事な標語だ。何より、このダイヤルが鳴らなくなることが一番の願いだが、現実は辛(つら)い事件が絶えない。
親になる自覚を欠く
児相が家庭に介入しやすくするなどを定めた改正児童虐待防止法が今年6月に成立した。また法務省が先月、プロジェクトチームを立ち上げた。虐待の深刻さに対する理解が社会に浸透し、撲滅への機運は高まっている。しかし同法が平成12年に施行して以降、減る兆候を見せないのは、対応が対症療法に終始し、“病巣”にメスを入れることを怠っているからではないか。
虐待は、貧困や社会からの孤立など、さまざまな要因が絡み合って起きると言われているが、親になることへの自覚を欠いたまま結婚し、子供を生み育てる若者が少なくないことが根源的な問題であろう。
防止月間が始まって早々、福岡県田川市で昨年11月下旬、1歳(当時)の三男にエアガンで数十カ所撃って大けがをさせたとして両親が傷害容疑で逮捕された。三男は12月、肺炎で死亡したが、虐待との関連が疑われている。
一方、死亡には至っていないが、7カ月の男児を洗濯機に入れた母親の交際相手(広島県)が、また小学2年生の長女の頬や手にヘアアイロンを当ててやけどを負わせた母親(佐賀県)が、それぞれ逮捕されるという事件が起きている。昨年度、全国の児相が対応した相談件数は約16万件。これは記録の残る平成2年以降、28年連続過去最多という、忌まわしい記録更新だ。
平成15年以降の死亡事例779人(心中以外)を検証した厚労省の報告書によると、虐待死のリスク要因として①母子健康手帳が未発行②予期しない妊娠③医師・助産師の立ち会いなく自宅で出産④家庭として養育能力不足がある若年妊娠――などがあることが分かった。これを見ると、深刻な虐待を行う親には、結婚についての自覚・準備が不十分であるという背景が浮かび上がってくる。
従って、虐待を撲滅するには、迂遠(うえん)なようだが、若者たちに愛情と責任を持って子供を生み育てることにつながる結婚観をいかに持たせるかが課題となろう。「自己決定」という聞き心地の良い言葉の陰で、結婚も当事者の幸福だけを考えるという歪(ゆが)んだ風潮が社会に蔓延(まんえん)しており、若者たちはその影響を受けているのだ。
総力挙げた取り組みを
自分の幸福を優先させる個人主義的な価値観を転換し、子供が生まれる可能性を念頭に置いた健全な結婚観を、若者たちが身に付けることは簡単なことではない。家庭、学校、地域社会、そして政治の総力を挙げて取り組まなければできないことだ。しかし、児童虐待を撲滅するには避けては通れない道である。