大嘗祭 古来の伝統が息づく即位儀礼


 天皇陛下の一連の即位儀式の中で、内的に最も重要な大嘗祭が今夜から明日未明にかけて斎行される。陛下は5月1日、三種の神器をお受け取りになる「剣璽等承継の儀」をもって皇位を継承された。先月22日に即位を内外に宣明される「即位礼正殿の儀」が執り行われ、今月10日には台風被害で延期されたパレード「祝賀御列の儀」が秋晴れの下で行われた。それに続く大嘗祭の儀式が厳かに滞りなく斎行されることを祈りたい。

 天照大神と神人共食

 大嘗祭は、新天皇が即位後、悠紀(ゆき)殿、主基(すき)殿を中心とする大嘗宮で新穀を皇祖天照大神に供え、国民の安寧、五穀豊穣(ほうじょう)を祈り、自身もそれを食する宮中祭祀(さいし)である。天皇が即位後初めて行う新嘗祭の性格を持つ。

 古来の農耕文化に根差した儀礼で、遅くとも天武・持統朝から行われてきたことが記録で確かめられている。即位礼正殿の儀は8世紀、唐風文化を取り入れた桓武天皇の時に始まるが、大嘗祭はこれ以上に日本古来の伝統を色濃く伝えるものだ。

 新天皇が天照大神と対坐(たいざ)し神人共食する神秘的な宗教的儀式である。わが国で今も神話が息づいていることを示し、日本文化の奥ゆかしさ、皇室の由緒の古さを物語る。フランスの思想家、レヴィ=ストロースがそのユニークさを認めるように誇るべきものである。

 ところが政教分離の観点から、このような宗教儀式への国費の支出は問題とする意見もある。的外れな批判というしかない。共産党や社民党など左翼勢力や一部メディアは、剣璽等承継の儀についても三種の神器が渡されることから「国民主権や政教分離にそぐわない」などと指摘。即位礼正殿の儀に対しても、高御座(たかみくら)で陛下が即位を宣言されることを批判した。

 ウェストミンスター寺院で行われる英国王の戴冠式は、国王が宣誓し、カンタベリー大主教が国王を聖油で清める。米国の大統領就任式も、大統領が聖書に手を置いて宣誓する。いずれも宗教的な背景を持って執り行われているのである。

 政教分離については、三重県津地鎮祭訴訟の最高裁判決(1977年7月)で「社会事象としての広がりを持つ宗教と国家や公共団体は完全に無縁であり得ない」とされ「特定の宗教を助長し他の宗教を圧迫する効果を持つと認められる活動でなければ『宗教的活動』に当たらない」との判断が示されている。

 それにもかかわらず、執拗(しつよう)に疑義を呈するのは、皇室への批判を通して日本国の弱体化を狙う政治的意図からくるものと考えざるを得ない。

 建材費の高騰などに伴う見直しで、平成時までは茅葺(かやぶ)きだった悠紀殿、主基殿など主要三殿の屋根は板葺きとなった。伝統的な建材を使用すべきだという要望も自民党議連から出ていたが、大嘗祭の本質は損なわれずに伝えられるだろう。

 古い文化に触れる機会

 大嘗宮は儀式終了後、一般公開される。建築に利用される木材も、皮が付いたままの黒木を使用していることなどを確かめることができる。日本の古い伝統文化に触れることのできる絶好の機会と言えよう。