感動呼んだ一般教書演説

米コラムニスト マーク・ティーセン

超党派の協力を呼び掛け
視聴者の75%が支持

マーク・ティーセン

 1月30日夜に初の一般教書演説を行ったトランプ大統領は、大変な課題に直面していた。歴史的な税制改革と規制緩和、保守派判事の指名、「イスラム国」の物理的カリフ制国家を排除、不人気だったオバマケアへの個人の加入義務の廃止、好調な株式市場と経済、過去45年で最低の失業率など、1年間でこれだけの実績を挙げたにもかかわらず、支持率は、演説の前日段階でわずか38%だった。

 これほどの成果を挙げた大統領への評価としては、低いと言わざるを得ない。

 下院の演台に上がった大統領にとって演説は、この傾向に歯止めをかけ、支持基盤を拡大するチャンスだった。トランプ氏の政策を支持しながら、トランプ氏を支持していない何千万人もの国民に実績をアピールする好機だった。

 トランプ氏はこの機を逃さなかった。ほとんどの大統領は、招待者の紹介を演説の最後に回したが、トランプ氏は、招待者を英雄としてたたえることで演説を始めた。ハリケーン「ハーベイ」の被災者を救出した沿岸警備隊の下士官アシュリー・レパート氏、暗殺未遂事件を乗り越え、わずか3カ月半で職務に復帰したスティーブ・スカリーズ下院議員(共和、ルイジアナ州)を紹介した。これによって、議場に一体感が生まれ、民主党側から漂っていた不信感を突き破った。全員が立ち上がり、拍手した。

 ◇民主党にアピール

 トランプ氏はその勢いで民主党に向かってアピールした。「困難な時に力を合わせるだけでは不十分だ。今夜、皆に呼び掛けたい。相違を乗り越え、共通点を探し、選挙で私たちを選出した国民が一つになれるようにしなければならない」。議場に拍手喝采がこだまする中、ペロシ下院民主党院内総務はこれを見下すように、無表情で、膝の上で手を組んだまま座っていた。

 トランプ氏は、大統領選で自身を支持しなかった黒人とヒスパニック系の米国人に対して、「アフリカ系米国人の失業率は過去最低、ヒスパニックの失業率も最低レベルに達した」と訴えた。「全米国人に、苦しい時の苦労の大切さを知ってほしい。すべての子供たちが、夜、家で安心して過ごせるようにしたい」と強調、「国民を、生活保護から仕事へ、依存から独立へ、貧困から繁栄へと引き上げる」ことを約束した。「刑務所の改革に取り掛かり、刑期を終えた元受刑者が、新たなチャンスをつかめるようにしたい」と訴えた。

 その上で大統領は「民主、共和両党の議員と力を合わせて」「移民制度改革に超党派で取り組んで」いきたいと呼び掛けた。インフラ整備へ1・5兆㌦の新規投資ができるよう法案作成に協力するよう民主党に求めた。労働力開発、職業訓練、職業教育や、オピオイド汚染と戦う追加予算、死に瀕(ひん)した国民が治験薬を試すことを認める「試す権利」法など、党派を超えて優先課題とされる課題に支持を表明した。有給家族休暇など民主党の優先課題をも支持した。

 ◇党派を超えた演説

 演説全体を通じてトランプ氏の話は、議場にいる人々、自宅で見ている人々の感動を呼んだ。ホームレスのヘロイン中毒者の子供を養子にしたアルバカーキの警官と妻、ギャングMS13の抗争で子供たちを失った2家族、移民税関執行局(ICE)の職員になり、何百人ものギャングを町から一掃した元空軍兵、シリアで手製爆弾でけがをした米兵を救出するため爆弾が仕掛けられた建物に突入して青銅星章を受章した陸軍2等軍曹、北朝鮮で拘束され死亡したオットー・ワームビアさんの家族、自由を求めて中国、東南アジアをつえを突いて何千㌔も移動した勇敢な脱北者らの話だ。

 演説は感動的で妥当なものだった。党派を超え、人々の心に届いた。CBSニュース-ユーガブの直後の調査では、視聴者の75%が演説を支持、25%が不支持だった。共和党員の97%、無党派の72%、民主党員の43%が支持を表明した。支持率38%の大統領にとっては悪くない数字だ。

 トランプ氏は一般教書演説で、少なくともこの日の夜に関しては、多くの国民の支持を獲得した。今後を見守りたい。

(2月1日)