ちぐはぐな米の対北政策
米コラムニスト デービッド・イグナチウス
冷戦時の膠着を想起
枠にとらわれない発想を
トランプ政権は、北朝鮮政策をオン・オフ可能なスイッチのように話すことがよくある。
トランプ大統領は19日、自国と同盟国を守るために北朝鮮を「完全に破壊する」とぶち上げた。一方でマティス国防長官はその次の日、「外交努力を続ける」と話した。
21日には北朝鮮への新たな経済制裁を発表するなど、米国の北朝鮮をめぐる対応はちぐはぐで理解しにくい。しかし、この攻撃か降伏かの二者択一を迫る現状は、冷戦時の核保有国間の膠着(こうちゃく)状態を不気味に思い出させる。軍事衝突が起き、多くの命が失われるか、敵の要求に屈するかどちらかしか選択肢はなかった。
この行き詰まりから脱出しようと、1970年代、80年代の戦略家らは新たな通常兵器、核兵器の開発の取り組み、最終的に行き着いたのがミサイル防衛だった。同じような工夫と発想の転換が今、求められている。
トランプ政権の戦略が成功することを期待するのはいい。ひょっとすると北朝鮮への「火力と怒り」の脅しによって、中国に石油の輸出を停止させられるかもしれない。北朝鮮が交渉を受け入れるかもしれない。暫定的な和平合意が交わされて状況が安定し、朝鮮半島の非核化と米軍の撤退を視野に「最終的地位」交渉が始まるかもしれない。
そうなるに越したことはないのだが、もちろんこれは最良のシナリオだ。しかし、常識的には、米国も同盟国も、こうはならないと考えておくべきだ。冷徹に、理性的に考えればこうはならない。「ロケットマン」と揶揄(やゆ)する子供のけんかのようなことは意味がない。
◇中国恐れる正恩氏
米当局者はまず、北朝鮮の脅威が米国にとってどの程度深刻かを見極める必要がある。大都市が危険にさらされ、金正恩氏の予測できない行動を阻止できない場合、その時は北朝鮮を力ずくで非核化することを考えなければならなくなる可能性がある。
米国がこの最強硬策を採用すれば、軍の増強が始まる。少なくとも2カ月はかかるはずだ。日本と韓国は、市民防衛計画を集中的に進め、国民を保護し、民間人の死傷者を最小限に抑えなければならない。
これはあくまで最悪のシナリオだ。しかし、金氏が本当に最悪の指導者だと思うなら、このようなシナリオを想定することも必要となる。安倍晋三首相は、このシナリオで進めているようにみえる。安倍首相のニューヨーク・タイムズ紙(18日付)への寄稿は、トランプ氏の強硬発言ほど過激ではないが、断固としたものだった。「かつてない、深刻で、差し迫った北朝鮮からの脅威」に対して「一致して圧力をかける」ことを呼び掛けた。
それほど過激でない視点から金氏を見て、数々の異様な行動が中国に向けられたものとしてみよう。金氏が中国の影響力を恐れているのは確かだ。中国に近いとみられていた叔父と異母兄弟を殺害した。ミサイルと核の実験にトランプ氏は反発を強めている。しかし、中国の習近平国家主席から繰り返し警告を受け、無視したことにもトランプ氏は強く反発している。
◇ドローンで迎撃も
金氏を、世界的な脅威というより、東アジア地域の脅威とみるなら、情報戦略で、中国との分断を図ることが適切な対応かもしれない。中国は03年、パイプラインの不具合のせいにして石油の輸出を数日間停止した。北朝鮮は直ちに交渉を開始した。情報活動で、パイプラインの「不具合」を再び生じさせることは常にあり得る。そのほかの壊滅的な事態が、北朝鮮や金氏に起こることもあり得る。米国と同盟国が、軍事行動や極秘行動のリスクを冒すほどの価値は北朝鮮にはないと判断したとしたらどうなるだろう。皮肉なことだが、戦争するよりも、敵に賄賂を贈った方が安くつく場合もある。どのように機嫌を取り、メンツを立てれば、金氏に開発をやめさせられるだろうか。「凍結」という方法はどうだろう。ブルッキングス研究所のロバート・アインホーン氏が提示した案だ。事態の悪化を抑えられ、核拡散を止められ、情勢の安定化を図ることができる。しかし、非核化を先送りするだけだ。
防衛力によって北朝鮮の脅威を大幅に減じることもあり得る。軍は「ブースト段階」での迎撃を推奨してきた。これなら、北朝鮮のミサイルを発射数分後に破壊できる。
国防総省は、軽量で強力なレーザー兵器を搭載した大型の高高度ドローン(無人機)を開発する新たな計画を開始した。北朝鮮の領空外に滞空させる。だがレーザー兵器が使用可能になるのは早くとも23年だ。既存のドローンから高速の迎撃ミサイルを発射するというのはどうだろう。国防総省の当局者によると、このようなシステムなら短時間で配備可能だという。
ケネディ大統領が1962年に独創的な発想でキューバのミサイル危機を回避した話はよく知られている。北朝鮮についても、既成の枠にとらわれない発想が必要だ。
(9月22日)