「忍耐」から「圧力」へ トランプ政権、対北政策を転換

ビル・ガーツ氏 米紙ワシントン・タイムズ(WT)の国防担当記者として、これまでにスクープ記事を多数執筆。現在は米保守系ニュースサイト、ワシントン・フリー・ビーコンの上級エディター。WT安保専門コラムニスト。著書に『iWar―情報化時代の戦争と平和』(iWar.com)、『誰がテポドン開発を許したか』(文藝春秋社刊)など。
米国のトランプ政権が北朝鮮に対する外交・軍事的圧力を強める一方で、北朝鮮は先週末、実施の可能性が指摘されていた核実験を見送った。米政府は新たな対北朝鮮政策を策定し、「忍耐」から「圧力」へと転換した。核兵器と長距離ミサイルの開発計画を放棄させるための圧力を強め、物資、資金の調達を困難にするための追加制裁なども検討している。
中国北東部で14日、北朝鮮による核実験への懸念が高まった。黄海を挟んだ北朝鮮対岸の中国の港町、大連の環境保護局は、北朝鮮が核実験を実施する可能性があると警告、「上級官庁と遼寧省の危機管理計画に従い、緊急事態入り」を宣言した。
宣言は、中国国営メディアが、地震と放射性降下物への懸念から北朝鮮の地下核実験に反対すると報じたことを受けた措置だ。
北朝鮮は、故金日成主席生誕記念に合わせて、先週末に6回目の核実験を行うとみられていた。だが、実際に行われたのは、対外的な刺激の少ない中距離ミサイルの発射であり、発射直後に爆発、失敗とみられている。
このところの北朝鮮をめぐる動向を列挙する。
①ペンス米副大統領が韓国で、従来の戦略的忍耐の終わりを表明。
②北朝鮮の韓成烈外務次官が英BBC放送で、ミサイル試射は毎週続く、核戦争が韓半島で起きる可能性があると指摘。
③軍事パレードで新型潜水艦発射弾道ミサイルKN11を初めて公表。
④北朝鮮のミサイル試射の失敗は、米情報機関がサイバー攻撃で、北朝鮮のサプライチェーンに侵入し、変造した部品、機器を忍ばせたためだと報じられた。トランプ政権はこれを否定した。
マクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)は16日、大統領が「北朝鮮が非核化を受け入れない場合の対応を、国防、国務両省、情報機関が協力して検討し、備える」よう国家安全保障会議(NSC)に命じたことを明らかにした。
トランプ政権は対北朝鮮新政策のもと、軍事演習の実施、空母打撃群の北朝鮮近海への派遣の発表など、軍事的圧力を強化する一方で、追加経済制裁の検討を進めている。北朝鮮の軍備に使用される物資や技術を供給している中国企業への制裁、資金を枯渇させて、武器調達を困難にする金融制裁などだ。
米政府高官は「大統領が個別の政策について発表することはないが、政府内で徹底的な検証を行っている」と核・ミサイル開発計画を放棄させるためのあらゆる手段を検討中であることを明らかにした。
一方で同高官は、金正恩朝鮮労働党委員長の暗殺、韓国への核再配備の報道については明確に否定した。
米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)のアジア安全保障問題専門家ビクター・チャ氏は、トランプ氏の新政策は、軍事・外交での強気の姿勢と、予測不可能性の組み合わせだと指摘、「これは戦略的忍耐と対比される。戦略的忍耐は、完全に予測可能だが、同時に優柔不断だからだ」と強調した。