プーチン大統領の古典的な“弁明”


 ロシアのプーチン大統領は4日、クレムリンで年次教書演説を行ったが、その中で欧米諸国の対ロシア制裁を「根拠に乏しいロシア抑止政策であり、ロシアへの明らかな敵対行為だ」と主張し、「不法な欧米諸国の敵対行為を絶対甘受しない」と述べた。ここまではプーチン氏が頻繁に繰り返してきた対欧米批判だ。

 問題はその次の発言だ。バチカン放送独語電子版6日によると、欧米側の対ロシア制裁の契機となった今年3月のウクライナ南部のクリミア半島併合について、「ロシア民族にとってクリミアは聖地だ。ちょうど、イスラム教徒とユダヤ人にとって『神殿の丘』(Tempelberg)のようだ」と弁明したというのだ。

 「神殿の丘」はエルサレム旧市街にあるユダヤ教、イスラム教の聖地だ。紀元前10世紀ごろ、ソロモン王が最初に建設し、その後、破壊、再建が繰り返されてきた。

 ロシア大統領がクリミア半島の歴史的意義を「神殿の丘」と比較して言及したことが伝わると、ウクライナ正教側から「暴論だ」という声が上がった。モスクワ正教に帰属するウクライナ正教からも「正教徒にとって聖人は聖公ウラジーミルだ。プーチン氏の論理で行けば、キエフ大公、聖公ウラジーミル(在位978~1015年)の祖母オリガが洗礼を受けた場所はイスタンブール(トルコ)だ。プーチン氏はイスタンブールを併合する考えなのか」(バチカン放送)と疑問を呈する有様だ。トルコのエルドアン大統領が聞けば頭に血が上るほど激怒するだろう。

 キエフのウクライナ正教ばかりか、プーチン大統領が期待しているロシア正教関係者からも「大統領、それは暴論ですよ」と批判を受けているわけだ。なお、聖公ウラジーミルは988年、キリスト教を国教とした。

 長い歴史を有する民族には必ずと言っていいほど、民族や宗教の発祥の地と関連した聖地が存在する。イスラム教ではメッカ、ユダヤ民族にとってエルサレムといった具合だ。そして歴史は、その聖地を支配し、奪回するために常に紛争が繰り返されてきた事を明らかにしている。

 プーチン氏がクリミア半島併合を弁明するために「ロシア人の聖地だ」という発言内容は非常にクラシックな“聖地奪回宣言”といえるわけだ。その意味で、プーチン氏の弁明は余りに陳腐だ。

(ウィーン在住)