中国の脅しに屈しないリトアニア人ーフランスから


地球だより

リトアニア

 パリ南西郊外イシ=レ=ムリノーに住んでいた頃に知り合った同じアパートの住人のリトアニア人夫婦は、すでに10年来の付き合いがある。彼らは2004年にリトアニアが欧州連合(EU)に加盟した後、パリに出稼ぎに来て定着した人たちだ。

 夫はフランス国内で住み込みの大工をしており、全国を転々とし、2カ月に1度、家に帰ってくる程度。妻は家政婦として必死で働き、オーストリアの大学で教育を受けていた1人息子に仕送りをしていた。

 彼らと話しているうちにリトアニア人の強靭な精神に圧倒された。妻のアレクサンドラは「私たちは旧ソ連の支配下で非常に貧しい生活を強いられた。理由は絶対に共産党員にならなかったからだ」「私たちはキリスト教の信仰を守るために命懸けだった」と言った。

 そのリトアニアはバルト3国の中でソ連崩壊直後、真っ先にソ連邦から独立した。隣国ポーランドと共にロシアとドイツに挟まれ、国家存続も容易ではない国際環境を生き抜いてきた。アレクサンドラは言う。「生活よりも精神の自由が大切よ。今も家族はバラバラだけど、私たちの心はいつも一つ」と。話を聞けば筆舌に尽くし難い苦労をしているのに、心はいつも穏やかで明るい。

 リトアニアは今、EU加盟国としては18年ぶりに台湾が代表機関を開設したことで、中国から貿易圧力を受けている。「私たちは信仰の自由と人権の価値を誰よりも知っているつもり。中国の脅しなど怖くない」と言った。欧州では、リトアニアは旧約聖書の巨人ゴリアテに打ち勝ったダビデにたとえられている。誇り高きリトアニア人には頭が下がる。(A)