北「苦難の行軍」は崩壊の予兆

高永喆の半島安保NOW

 北朝鮮で4月8日に閉幕した朝鮮労働党細胞書記(末端組織責任者)大会で金正恩総書記は「私は党中央委員会から始まって…全党の細胞書記たちがますます強固な『苦難の行軍』をすることを決心した」と宣言した。

 新型コロナウイルスによる中朝国境の閉鎖と国連の対北制裁は北朝鮮の経済状況をさらに悪化させている。

 北朝鮮は1990年代半ば、「苦難の行軍」を掲げ全国民を経済回復に動員したが、その背景には90年代初の旧ソ連・東欧の社会主義諸国崩壊と相次ぐ自然災害、さらに米国の対北封鎖政策があった。

 日本共産党機関紙『赤旗』(現『しんぶん赤旗』)の平壌特派員を務めた故萩原遼氏は著書で、苦難の行軍の時、300万人が餓死したと述べている。この数字は検証されてないが、“話半分”としても150万人の餓死者が出たことになる。

 国連食糧農業機関(FAO)は3月4日(現地時間)発表の報告書で、北朝鮮を外部の食糧支援が必要な45カ国の一つに指定した。07年から15年連続だが、新型コロナウイルスの影響で食糧安保がより脆弱(ぜいじゃく)化したとみている。

 FAOなどの報告書によると、16~19年に北朝鮮住民の47・6%が栄養不足に陥っている。人口の半分が慢性的な栄養失調を余儀なくされているわけだ。こうした状況は北朝鮮の民間経済に深刻な打撃を与えている。

 金正恩体制にとって一番怖いのは住民多数の反体制蜂起である。

 現在、北朝鮮は携帯普及率が600万台を超えている。住民の大部分が隠れて韓流ドラマを視聴しており、昼は共和国万歳を唱えながら、夜は韓国に憧れている。こういう動きは労働党と軍幹部にも拡散し、面従腹背の雰囲気が広がっている。

 今回、党細胞書記大会で金総書記は住民の思想改革を呼び掛けた。

 しかし、韓流ドラマを通じて韓国の豊かさと自由世界を味わった住民の思想変容は逆戻りできない。

 北朝鮮は5カ所の政治犯収容所で15万人を強制収容中である。人権問題を外交政策で最優先する米バイデン政権は対北強硬路線を強めている。これから3代にわたる長期独裁体制のレジームチェンジが稼働し始めると考える。

(拓殖大学主任研究員・元韓国国防省分析官)