消費増税まで1カ月で「万全な準備を」と言うにとどまった掲載3紙社説

◆小売店の準備遅れる

 10月1日実施の消費税増税まで1カ月を切った。2014年4月以来、経済への悪影響を懸念して2度延期され、実施は5年半ぶりである。

 予想外の消費低迷をもたらした前回の経験から、政府は今回、2兆円以上の経済対策を準備し、食料品などは税率を据え置く軽減税率を初めて導入する気の入れようである。

 景気に力強さは戻らず、緩やかな拡大を続けるものの、世界経済が米中貿易摩擦を中心に減速化しつつある中での増税実施に対して、本紙は社説で懸念を表明し、小欄でも幾度か取り上げ警戒を促してきたが、先の参院選で示された民意は「ゴーサイン」で今に至る――。

 さて、実施1カ月前の1日付で増税についての社説を掲載したのは読売、毎日、日経の3紙。いずれも増税を不可欠と支持してきた各紙である。

 読売は冒頭で記した「増税の悪影響を打ち消す施策の準備は万全か。最終点検を進め、円滑に乗り切りたい」との観点から、「消費者や小売店に、(経済)対策の内容を周知徹底し、景気の腰折れを防がねばならない」と強調する。

 確かに尤(もっと)もな主張で、そんな同紙が懸念するのは、軽減税率導入やポイント還元制度に対する小売店の準備の遅れである。

 軽減税率ではレジの買い替えや改修に補助金が出るが、7月末時点の申請は対象事業者の4割ほど、ポイント還元制度への中小店の参加申請も8月29日時点で対象店の4分の1にとどまっているというから、経済対策上、大いに問題である。同紙が指摘するように、中小企業庁は「準備の促進へ、事業者に丁寧に説明する必要」があろう。

 毎日は今増税の「大きな特徴」である軽減税率を、「増税による景気への悪影響を抑える効果も見込める。日本は消費が弱いだけに重要性は一段と増す」と評価する。「税収が景気に左右されにくい消費税は、高齢化が進む社会の貴重な財源だ。一方、低所得者ほど負担が重い逆進性という課題を抱える」からである。

◆消費現場の混乱懸念

 「問題」もある。「飲食料品で軽減対象の線引きが複雑になるとみられていること」と、飲食店からの持ち帰りは8%で店で食べると10%になる「まぎらわし」さである。

 毎日は、事例集を示している政府に対し、さらなる周知や工夫を、企業には分かりやすい表示への努力を求める。

 もっとも同紙は、「消費税率20%前後の欧州では広く定着している」「欧州では軽減税率で市民生活が大きく混乱したとの話は聞かない」として、日本での早期定着もそう困難視してはいないようだ。

 日経だが、同紙は「残り1カ月で、増税時の消費現場の混乱を防ぐ備えを万全にしてほしい」とした。「消費現場の混乱」とは、先の2紙が示したような軽減税率などへの対応の遅れであり、キャッシュレス決済支援策での課題の多さである。

 日経には、先の2紙のような、増税による景気腰折れ懸念への経済対策を認める視点に乏しく、あくまで「消費現場の混乱」をもたらす要因との捉え方が強い。

 さらに同紙は「私たちは増税分を政府がポイントで返してしまう支援策には問題が多いと指摘してきた」と記す。「消費増税は、社会保障の持続性を確保し、…財政の健全化を着実に進めるためのものだ」という趣旨に反するからということであろう。

◆来年7月以降が心配

 しかし、増税は必ずしも財政を健全化せず、むしろ経済への悪影響から景気低迷を長引かせ、悪化させもする(1997年度の経験)。今回の同紙社説でも、そうした視点が全くない。

 今回の増税では今のところ、駆け込み需要が目立たず、10月以降に大きな反動減が起こることもなさそうとみられている(読売、日経指摘)。経済対策の効果ならいいが、賃金上昇率の低下を指摘する声もある。やはり増税後、特に還元策が終わる来年7月以降が心配である。こうした懸念は3紙にはもちろんない。

(床井明男)