リクナビ問題でいち早く個人データ活用の課題指摘した日経に一日の長

◆学生の信頼を裏切る

 就職情報サイト「リクナビ」を運営するリクルートキャリア(東京)が、学生の「内定辞退率」の予測データを企業に販売していた問題。販売サービスは4日付で廃止されたが、同社には学生の信頼を裏切ったとの批判が、購入した38社には疑念の目が向けられ、企業名が徐々に明らかになっている。

 この問題に新聞各紙は8日付の日経を皮切りに毎日、朝日など5紙が社説で取り上げ、いずれも厳しい論評を掲載した。各紙見出しは次の通り。日経「リクナビ問題が映すデータ活用の課題」、毎日(10日付)「就活生への重大な背信だ」、朝日(12日付)「個人情報 危うい『活用』」、読売(14日付)「個人情報の扱いが粗雑すぎる」、東京(19日付)「若者の未来への背信だ」――。

 掲載の早さといい、問題の的を射た内容といい、さすが経済紙の日経である。

 同紙は、リクルートキャリアが販売サービスを廃止したことを「当然の対応」とし、「個人データの扱いを誤れば、事業が深刻な打撃を受けかねないことを企業は肝に銘じるべきだ」と強調した。

◆外部に個人情報提供

 問題になったのは、本人に十分に説明しないまま、個人情報を外部に提供し続けた点であるが、個人情報を扱ってきたプロの企業が、なぜ、こうした問題を起こしたのか。

 サイトの利用規約では、「採用活動補助のため」企業へ情報提供すると説明していたが、同紙は「だが、これで内定辞退率まで渡すと理解できた学生はほとんどいないはずだ」としたが、その通りである。しかも、リクナビは年に80万人が使うが、社内調査では約8000人から型式的な同意すら得ていなかった。

 驚きあきれるばかりだが、「個人情報保護法に違反していた疑いが強まったが、なお不明な点が数多く残っている」というのが日経の指摘である。

 日経は、データを買った38社も「責任を問われかねない」とした。辞退予測データを使うには、応募学生の個人情報をリクナビ側に提供する必要があるからである。同紙は「本人の同意がないまま渡していたとなれば、手続きがずさんだったとの批判は免れまい」としたが、これまた同感である。

 他紙も内容はほぼ同様であるが、毎日、朝日はデータの購入額が1社当たり400万~500万円であることを明らかにした。

 毎日は日経同様、購入した企業側の責任にも言及した際、個人情報保護法のほかに、職業安定法が労働者募集の際に、企業が第三者から個人情報を取得することを原則禁じているため、毎日は「予測の購入はこれに抵触する可能性がある」とした。

 同紙は「就活生への重大な背信だ」と最も厳しい見出しだったが、その背景にはリクナビ側の「予測対象となった就活生の全体数や、購入した企業名は公表していない。発表文を一方的に出すだけで、記者会見も開かない姿勢も不誠実と言わざるを得ない」という対応にあるようだ。

◆高い倫理性が必要に

 技術の進歩で、収集したデータを生かしたビジネスが可能となっている。読売が「データの取り扱いには、より高い倫理性が求められる」とし、日経が「企業はこれまで以上に倫理や規律が求められることを自戒しなければならない」としたのは妥当である。

 個人情報保護法は来年の見直しが予定されているが、その際に、独占禁止法の「優越的地位の乱用」の視点を挙げているのは、朝日である。

 公正取引委員会が巨大IT企業を念頭に、強い立場の事業者がサービスと引き換えに、不当に個人情報を収集することを規制する方向で動いていることから、「今や就職活動のインフラと言える情報サイトと学生の関係も、これに該当するだろう」というわけである。日経も社会のデジタル化を見据えた個人データの保護拡充へ法制度の機動的な見直しを求めた。

 各紙それぞれに独自の視点もあったが、やはり、日経に一日の長あり、か。

(床井明男)