景気「悪化」、「後退局面」の可能性高まる
緩やかな拡大を続けていた景気は、既に「後退局面入り」している可能性が大きい――まだ断定はできないが、3月の景気動向指数をはじめ、最近発表される経済指標はそれを裏付けつつある。
景気動向は10月予定の消費税増税の実施判断にも影響を与えるだけに、永田町では増税延期、衆参同日選の憶測も出ている。増税は経済に大きな影響を及ぼすだけに、米中貿易摩擦の行方をにらみつつ、熟慮にも熟慮を重ねた判断を求めたい。
基調判断を下方修正
3月の景気動向指数は、本紙社説でこれまでも指摘していた通り、基調判断を6年2カ月ぶりに「悪化」と下方修正するものになった。
景気「悪化」の兆候は既に1月の動向指数から表れていた。同指数の発表時に基調判断は、前月までの「足踏み」から「下方への局面変化」に引き下げられ、2月のそれも大きな改善が見られず、同判断を維持。3月は一致指数を算出する七つの経済指標のうちの5指標が悪化に寄与したのである。
4月の月例経済報告では、基調判断を「このところ輸出や生産の一部に弱さも見られるが、緩やかに回復している」としていたが、今月下旬の5月の同報告でどういう判断を示すか。
日銀の3月全国企業短期経済観測調査(短観)でも、企業の景況感が6年3カ月ぶりの大幅な悪化となり、第2次安倍政権発足後最大の悪化となった。最近出そろった上場企業の2019年3月期決算は純利益が前期比2・2%減と3期ぶりの減益。今期(20年3月期)は増益を予想するものの、不安定要因が多いという。
企業の景況感を悪化させ、先行きを不透明にさせているのは、米中貿易摩擦の問題である。19年3月期の減益も主に下半期の中国経済の減速が響いたからだが、ここにきて米中摩擦が一段と激化の様相を呈してきた。
米国は2000億㌦(約22兆円)相当の中国製品を対象にした追加関税の税率を25%に引き上げた。これに対し中国が6月1日からの報復措置の発動を発表すると、米国はさらにほぼすべての中国製品に制裁関税を拡大する「第4弾」の詳細案を公表する事態に。
スマートフォンなどの携帯電話やパソコン関連だけでなく多くの生活必需品も対象になり、実現されれば、その影響は中国だけでなく日本を含め世界経済に及ぶと懸念される。企業の景況感はもとより国民の消費意識にも与える影響は小さくない。景気の好転を見込める状況ではないということである。
景気が既に後退局面入りしたと見てもおかしくない状況に、さらに米中摩擦の激化という景気の下押し要因が予想される中で、軽減税率や景気対策を準備しているとはいえ、10月に増税を実施していいものかどうか。
増税判断の行方占うG20
消費不振が明らかになった中国が、米国との協議で態度を軟化させる可能性も指摘される。首相の増税判断の行方を占う意味でも、米中トップが参加する6月下旬の20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)は要注目である。