ゴーン容疑者逮捕、「本丸」に迫って全容解明を


 日産自動車の資金を中東オマーンに不正送金し、同社に損害を与えたなどとして、東京地検特捜部は、会社法違反(特別背任)容疑で、前会長カルロス・ゴーン容疑者を再逮捕した。これで4度目の逮捕となる。

「オマーンルート」の容疑

 今回の逮捕容疑は、日産子会社「中東日産」からオマーンの販売代理店の預金口座に振り込んだ資金の一部を、ゴーン容疑者が実質保有する会社の口座に送金する手口で、2015年12月~18年7月、日産に計500万㌦(約5億6300万円)の損害を与えた疑い。

 ゴーン容疑者は保釈中で、逮捕は異例のことだが、在宅捜査では関係者との口裏合わせや証拠隠滅などの恐れがある以上、当然のことだと言えよう。そもそも、特捜部が余罪を追及する被告について、裁判所が保釈を認めることが珍しい。

 関係者によると、12年以降、代理店には、日産最高経営責任者(CEO)の裁量で支出できる「CEOリザーブ」から年300万㌦~500万㌦ずつ送金されており、総額は少なくとも3200万㌦(現在のレートで約35億円)に上る。一部はペーパーカンパニーを通じ、ゴーン容疑者や家族が使うクルーザー購入費に充てられていた疑いがあるという。こうした会社の私物化が事実であれば極めて悪質である。

 今回の「オマーンルート」は事件の「本丸」とされている。ただ、これで起訴するには、ゴーン容疑者が自己の利益のため、日産にとって不要な不動産を購入し、同社に損害を与えたことを立証する必要があった。

 このため特捜部は、役員報酬が正しく有価証券報告書に記載されていなかった事件の解明を先行させた。捜査はその後、ゴーン容疑者がサウジアラビアの実業家で知人のハリド・ジュファリ氏に日産資金約12億円を流出させた別の私物化事件へとつながった。

 特捜部は、中東への巨額の資金提供の発端は、ゴーン容疑者が08年秋のリーマン・ショックの際、私的な投資で評価損を抱えたことだったとの見方を強めている。ゴーン容疑者が銀行から追加担保を求められた際、ジュファリ氏は約30億円分の信用保証に協力している。ジュファリ氏側への資金提供は、その謝礼などだった疑いがある。

 オマーンの代理店のオーナーもゴーン容疑者の長年の知人だった。容疑者は以前、オーナーから3000万㌦(約33億円)の借金をした上で、銀行に2000万㌦(約22億円)の追加担保を差し入れていた。

 ゴーン容疑者の逮捕が繰り返される中、海外メディアからは日本の司法制度に対し、身柄を拘束して自白を促す「人質司法」との批判が出ている。しかし、捜査は適正な手続きによって行われている。特捜部は「本丸」に迫って全容を解明すべきだ。

海外との捜査協力強化を

 ゴーン容疑者が、日産と企業連合を組む仏自動車大手ルノーも私物化していた疑惑も相次いで浮上している。ルノーの資金もオマーンの代理店を通じて容疑者側に還流していたとされている。特捜部は海外との捜査協力も強化する必要がある。