ゴーン被告保釈、事件の全容解明につなげよ


 日産自動車の前会長カルロス・ゴーン被告が保釈された。

 ゴーン被告は一貫して無罪を主張しており、初公判前に争点などを絞り込む公判前整理手続きが始まっていない段階での保釈は異例だ。

居住制限などの条件付き

 ゴーン被告は昨年11月、自身の役員報酬を有価証券報告書に過少に記載したとして金融商品取引法違反容疑で東京地検特捜部に逮捕され、12月に起訴された。このほか、日産に損害を与えたとされる会社法違反(特別背任)罪でも起訴されている。

 特捜部が手掛けた事件では、否認を続ける被告が長期間勾留されるケースが目立つ。検察側が証拠隠滅の恐れを理由に保釈に反対し、裁判所もこうした主張を認めるためだ。

 2002年にあっせん収賄罪などで起訴された鈴木宗男衆院議員(当時)の勾留は、衆院議員として戦後最長の437日間、09年の郵便不正事件で起訴され、無罪が確定した元厚生労働省局長の村木厚子氏の勾留も164日間に及んだ。

 一方、ゴーン被告は保釈保証金10億円を全額納付し、108日間勾留されていた東京拘置所を出た。特捜部の否認事件としては異例だ。

 東京地裁は保釈許可決定で、被告の住居を都内に制限し、出入り口に監視カメラを付けるなど約10項目の条件を付けた。海外渡航の禁止や、側近の前代表取締役グレッグ・ケリー被告との接触制限も含まれる。逃亡や証拠隠滅をさせてはならない。

 ただゴーン被告の身柄拘束が約3カ月半に及んだことで、海外メディアからは長期勾留を可能とする日本の刑事司法制度への批判が出た。仮に東京地裁がこうした批判に配慮し、今回の保釈を許可したのであれば懸念が残る。

 日本の勾留期間は必ずしも長いとは言えない。ゴーン被告が会長を務めていた自動車大手ルノーの本社があるフランスでは、捜査の初期には裁判官の令状なしに原則1日の「警察勾留」ができる。さらなる拘束が必要だと判断されれば「予審」という公判前の手続きと勾留を同時に求め、認められた場合には、原則1年以内、最長で4年8カ月間拘束できる。

 海外メディアの批判には誤解に基づく面もあり、現行の日本の制度に大きな問題があるわけではない。菅義偉官房長官は「わが国の刑事事件の捜査は、捜査機関から独立した裁判官による令状に基づくなどの厳格な司法審査を経て適正な手続きの下で行われている」と強調した。

運用見直しの動きも

 もっとも、近年は裁判所が保釈の運用を見直す動きも出ている。05年に導入された公判前整理手続きでは、初公判前に争点や証拠を絞り込むため、早期に被告を保釈することで、弁護人と公判準備を進める環境を整える必要性も高まったからだ。全国の地裁が一審判決前に保釈請求を認めた割合は、00年の48%から17年には66%に上昇しているという。

 ゴーン被告の保釈も、こうした傾向の延長線上にあるとの見方も出ている。そうだとすれば、保釈を事件の全容解明につなげなければならない。