拉致問題解決、金正恩氏の説得に乗り出せ
ベトナムのハノイで行われた2回目の米朝首脳会談でトランプ米大統領が北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長に日本人拉致問題を提起したことを受け、安倍晋三首相は同問題解決に向け改めて意欲を示した。日本としては正恩氏の対話路線を好機と捉え、説得に乗り出すべきだ。
北の関心薄れた恐れも
安倍首相はトランプ氏の拉致提起について「成果」と指摘し、「何が最も効果的かという観点から今後の対応を検討する」と述べた。米朝会談は決裂に終わったが、両国は今後の対話再開に含みを持たせており、対話の門戸を閉ざしたわけではない。米朝対話が続けば、正恩氏に拉致解決をより真剣に考えてもらう環境づくりが可能だ。
だが、もう一歩踏み出さねば解決は難しい。拉致問題は日本にとって最優先課題であっても北朝鮮はそうではない。正恩氏にとって焦眉の急を要する制裁緩和が今回の米朝会談で実現せず、拉致問題への関心はさらに薄れた恐れすらある。
安倍首相は拉致被害者の家族らと面会し、「次は私自身が金委員長と向き合わなければならない」と決意を重ねて強調した。安倍首相は側近らに任期中の解決を明言してきた。被害者と家族は疲労困憊(こんぱい)しており、一刻も早く正恩氏と首脳会談を行って決断を迫る必要がある。
現在、外務省だけでなくさまざまなルートで北朝鮮側の意図を把握する努力が続けられているようだ。北朝鮮が欲するのは日本との国交正常化とそれに伴う賠償金の受け取りだろう。そのためには拉致問題の全面解決が不可欠であることも北朝鮮は十分承知しているはずだ。
拉致被害者家族会と救出運動を行う「救う会」は正恩氏宛てのメッセージで「帰ってきた被害者から秘密を聞き出して国交正常化に反対する意思はない」と表明した。被害者の多くが日本や韓国に対する工作活動に協力させられたとされ、メッセージは帰国後の機密漏洩(ろうえい)を恐れる北朝鮮側に配慮したものだ。
両国の間には深い不信の溝がある。解決にはまず向き合い、時として相手に配慮しなければ話は進まない。
もちろん北朝鮮側の政治的思惑に利用されないよう注意が必要だ。北朝鮮が日本に被害者再調査などを約束した2014年のストックホルム合意は、合意直後から北朝鮮側の真意を疑う声が上がっていた。結局、再調査の有無は確認できず、競売に付された在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の本部敷地・建物は今もそのまま使われている。
02年と04年の小泉純一郎首相訪朝により5人の被害者とその家族の帰国が実現したが、安倍首相の肩には被害者全員の帰国が懸かっている。日朝首脳会談を行うのであれば正恩氏が解決に向け大きな決断を下せるような場としなければならない。
重要な日韓の安保連携
日朝が拉致問題解決に向け動き出すには韓国の理解と協力も欠かせない。対北融和政策を敷く韓国・文在寅政権は反日路線を強めており、南北が反日で共闘する動きもある。同じ拉致問題を抱える韓国には安全保障面での日韓連携の重要性を再認識してもらう必要がある。