米韓演習廃止、情勢不安定化を招かないか


 米韓両政府は、毎年2~4月に実施していた大規模な合同軍事演習を打ち切ると発表した。決裂した2回目の米朝首脳会談後も北朝鮮との非核化協議を続けるための緊張緩和策の一環だが、東アジア情勢の不安定化を招かないか懸念される。

 小規模の新たな訓練に

 廃止が決まったのは、野外機動訓練の「フォール・イーグル」と指揮所演習の「キー・リゾルブ」だ。米国防総省は、廃止の理由について「緊張を緩和し、朝鮮半島の完全な非核化を実現する努力を支援するため」と説明した。

 一方、トランプ米大統領は「米国に払い戻されない何億㌦もの費用を節約するためだ」とツイッターで述べている。北朝鮮との非核化交渉で進展が見られない中、緊張緩和を実績として印象付ける狙いもあろう。

 今後は、より規模の小さい新たな訓練に切り替えるという。キー・リゾルブに代わる新たな演習「同盟」は、今月12日までの日程で既に始まっている。フォール・イーグルに代わる演習も、数百人単位の大隊規模以下で行うとみられている。しかし、これでは不十分だ。

 有事に「連合軍」となる米韓両軍にとって、定期的な大規模演習は即応態勢を維持する上で欠かせない。米軍には朝鮮半島の地形に習熟することも求められる。

 大隊規模の訓練では両軍の連携が不足し、有事への対応に支障を来す恐れがある。日本を含む東アジア地域の安全保障にも悪影響を与えかねない。

 北朝鮮の非核化実現には、国際社会の圧力が必要だ。北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が、今年の新年の辞で米韓合同軍事演習の中止を求めたのも、演習が北朝鮮に対する大きな軍事的圧力となっていたことを示すものだと言えよう。

 北朝鮮は自国のレーダーで捉えられない米軍の戦略爆撃機や原子力潜水艦、空母などを恐れている。緊張緩和を理由に米韓演習を縮小すれば、非核化交渉を続けても成果を得るのは難しいだろう。

 韓国の情報機関、国家情報院は、北朝鮮北西部・東倉里のミサイル発射場で、撤去した施設の一部が復旧する動きを把握したと報じられた。米戦略国際問題研究所(CSIS)も、今月2日に撮影された人工衛星写真を基に、東倉里の発射場の復旧が急ピッチで進んでいると分析している。事実だとすれば、米朝首脳会談の決裂を受けての動きだろう。

 昨年9月の南北首脳会談で署名された「平壌共同宣言」は「北朝鮮は、東倉里のエンジン試験場とミサイル発射台を関係国専門家の立ち会いの下に永久に廃棄する」と明記している。だが、これまでも北朝鮮は6カ国協議共同声明などの国際合意を無視して核開発を進めてきた。

 日本は撤回を働き掛けよ

 米韓大規模演習廃止を受け、岩屋毅防衛相は「朝鮮半島における抑止力をしっかり維持する方向で対応していただきたい」と語り、在韓米軍の抑止力低下につながらないよう要請した。

 これにとどまらず、日本は米韓両国が廃止を撤回するよう働き掛けるべきだ。