日欧EPAで各紙が自由貿易強化の意義強調する中、後ろ向きの東京

◆米中の対立に危機感

 日本と欧州連合(EU)による経済連携協定(EPA)が1日発効し、世界貿易の約4割を占める巨大な自由貿易圏が誕生した。相互に貿易品目の9割超の関税を撤廃し、通関手続きも簡素化。知的財産権の保護を厳格化する共通ルールなども導入された。

 在京紙では、これまでに朝日と本紙を除く5紙が社説で論評を掲載した。見出しを挙げると、以下の通りである。1日付日経「EPAを礎に日欧の絆さらに深めよ」、毎日「巨大な貿易圏を生かそう」、2日付産経「成果重ねて『自由』広げよ」、東京「恩恵の影も忘れずに」、4日付読売「堅固な協調で自由貿易を守れ」――。

 東京以外の4紙は、いずれも自由貿易の推進と保護貿易の防波堤としての意義を強調。特に経済紙の日経は、品目数で見た関税の撤廃率は日本が94%、EUが99%に達するとして、「これほど大きな市場で高水準の貿易自由化を推進し、知的財産や政府調達などの公正・透明なルールを定めた意義は大きい」とし、「EPAの様々な効果を確実に引き出し、日欧経済を活性化させる必要がある」と訴えた。

 日欧EPAの発効により、米国を除く11カ国の環太平洋連携協定(TPP11)に続き、日本が参加する巨大な自由貿易圏がもう一つ生まれたわけだが、日経は「TPP11と日欧EPAの恩恵を顕在化させることで、保護貿易の誤りを世界中に知らしめたい」とまで言い及ぶ。

 同紙がここまで言うのも、「米国と中国の貿易戦争が響き、世界経済の先行きには暗雲が垂れこめる。制裁と報復の悪循環を断ち切らなければ、主要国が共倒れの危機にさらされる」との危機感からである。経済的には確かにその通りであろう。

◆楽観できぬ対米交渉

 他の3紙もほぼ同様で、現状では米国の企業や農家が不利な競争条件を強いられるため、トランプ政権に軌道修正を求める圧力も強まるのではないか、と期待する。これから始まる米国との貿易協議への影響(というより効果の方が適切か)である。

 毎日が「米国が早期妥結を優先し、日本が交渉を優位に進められる可能性もある」と期待すれば、産経も「米国が合意を焦っても、日本は慌てる必要はない。むしろ、両協定の発効で、日本の立場は強まったのではないか。交渉を優位に進めるしたたかさを求めたい」とした。

 読売は、日本が優位に交渉を進められる可能性があるとしながらも、「一方で、米国がEPAやTPPを上回る市場開放を迫ってくるリスクも捨てきれない」と慎重な見方を示す。同紙の見る通り、楽観は禁物であろう。

 EUも米国と貿易協議を進行中である。読売が指摘するように、日本は対米交渉でもEUと緊密に連携し、有効な外交戦を練ることが求められよう。

◆生産者支援の工夫を

 これら4紙と違って、「生産者の不安や痛み、貿易自由化の負の側面は最小限にすべきだ」としたのが東京である。同紙はまた、日欧は経済も市場も成熟しているとして、「市場が成熟した日欧の貿易自由化は、一方の利益がそのまま他方の損失につながる、いわゆるゼロサムゲームになる懸念がある」との見方を示した。

 もっとも、同紙はそう指摘しながら、「強まる保護主義に歯止めを掛ける国際協調として、EPAの持つ意味は決して小さくない」とも言い、論旨に矛盾が見られる。また、EUには途上国ほどではないにしても多様な加盟国が参加しており、一概に成熟した市場と言えるのか疑問も残る。

 同紙が言いたいのは、「成熟した大人の日欧には、生産者への支援策も含め痛みを伴う『ゼロサム』ではない成果を生み出す工夫がほしい」ということらしい。

 ただ、生産者の痛みについては、先の3紙も「農家への影響に目配りしつつ、国内全体の活性化につなげるべきだ」(毎日)、「生産者に政策面で一定の配慮を示すのは当然」(読売)などと言及。特に産経は「農畜産業は経営基盤の強化が迫られるが、攻めの発想も欠かせない」として、今回、日欧EPAで定められた地理的表示(GI)を相互に保護する知財権などを使い、「ブランド力に磨きをかけて輸出拡大にも取り組みたい」とした。この方が前向きで具体的である。

(床井明男)