平成経済30年史をひもとくエコノミスト、日本の生存戦略を探る東洋経済
◆拭えぬ将来への不安
2012年12月に誕生した第2次安倍政権が打ち出したアベノミクスによる景気拡大が戦後最長を記録しつつある。これまで長期にわたる景気回復は“いざなみ景気(02年2月~08年2月)”の73カ月と言われてきたが、政府が1月29日に発表した1月の月例経済報告で「12年12月から始まった景気回復がいざなみ景気を越えて戦後最長の可能性がある」と指摘した。
一方、多くのメディアは今回の景気回復に対しては、「国民の間には実感がない」と消極的な評価を下す。ただ、旧民主党政権時代に比べれば経済成長、賃金、雇用の面で明らかに好転しており、野党が言うような「アベノミクスそのものが失敗」ということは当たらない。もっとも、日本経済の先行きを見通せば明るい未来が待っているか、と言われれば、そうとも言い切れない側面があるのも事実なのである。
そうした不安を見越すかのように経済誌が日本の将来への生き残り策を提示している。一つは週刊エコノミスト(1月15日号)の「平成経済30年史」。もう一つは、週刊東洋経済(1月19日号)の「衰退か再興か日本の生存戦略」と題する特集がそれ。エコノミストの特集は、過去の30年に起こったそれぞれの経済事件に焦点を当てているが、実はそれらを踏まえて現在の経済政策や日本が将来、直面するであろう課題に対しての処方箋を打ち出している。他方、東洋経済は人口減少と高齢化が進む日本の現状に焦点を当て日本経済再興の道を探る。
◆最低賃金引き上げを
ところで人口減少、高齢化はおのずと生産年齢人口を減少させ、逆に社会保障費を増大させる。そうした社会を回避するための方策として、東洋経済はデービッド・アトキンソン氏を登場させた。米ゴールドマン・サックス出身で日本に30年間生活し、自ら企業経営に携わる同氏は、「(企業経営者は)最低賃金を引き上げよ」と主張する。同氏は「日本人は中小企業が大好きだが、極めて安い賃金で人を雇い、無理に存続している会社を(国が)守っている。…さまざまな問題の根本的な原因は、小さい企業が多すぎることにある」とした上で、「生産性を向上させる最大のポイントはやはり、賃金をどのように引き上げるか。低い賃金で働かせているところを変えれば、ほかの部分はおのずと変わっていく」と述べ、最低賃金上昇を日本再興の起点と結論付ける。
ここで現在、政府が進めようとする外国人労働者の受け入れについて、エコノミストと東洋経済の見解を比較してみると面白い。
エコノミストでは、山脇啓造明治大学教授が増加する外国人労働者との共生を打ち出す。「平成の30年間は日本に定住する外国人が大幅に増加し、日本社会が大きく変容した時代といえる。1989年の入管法改正を機に、89年には97万人だった在留外国人は2018年6月末時点で264万人と2・7倍になった。この間、日本は『安価な労働力』として多くの外国人を受け入れてきたが、多文化共生社会づくりは後れを取っている」と指摘し、そのために、「今後も外国人の増加が見込まれる日本にとって、多文化共生社会づくりは緊喫の課題である」と主張する。
◆企業価値高める必要
一方、東洋経済においてアトキンソン氏は、「そもそも外国人を受け入れる必要があるといっているのは、外食産業や宿泊業など、生産性が著しく低く、過酷な労働条件の業種だ。これまで過度の価格競争を永く繰り返してきた結果、まともな給料を払えなくなったところが『人手不足だ』と主張している。これは人手が足りないのではなく、ひどい労働条件なので働きたいと思う人がいないだけ。そこに外国人を入れるというのはばかげた政策だ」と断罪する。
アトキンソン氏の理論はちょっと極論過ぎるきらいがあるが、納得できる側面もある。確かに日本の企業はこれまで賃金引き上げを前提にした労働生産性の向上について真剣に議論してこなかった。中小企業を含めて日本企業が今後存続するためには、これまでのような安直な手法を取るのではなく、企業合併や人材育成への投資などを進めることで企業価値を高める必要がある。日本が欧米の先進諸国の中で存在価値を高めるためには、日本の企業の弱点を直視すること。そして産業構造を転換させていかなければならないときにきているのは間違いない。
(湯朝 肇)