文政権の左派イデオロギーに触れず日韓悪化の表面なぞったクロ現
◆「中立」報道を装う?
「一衣帯水」と表される日韓関係は今「最悪」だ。あらゆるメディアがいわゆる「従軍慰安婦」をめぐる問題、「元徴用工」判決、そして火器管制レーダー照射問題を中心に、両国関係を憂慮する報道・解説を行っている。
文在寅政権の親北・左派イデオロギーを抜きにしては両国関係悪化の要因を探ることも、今後の両国関係も考えることはできないはずだが、そこをすっぽり抜かし、表面をなぞっただけで終わった報道番組があった。1月24日放送のNHK総合「クローズアップ現代+」だ。
文氏はかつて左派の弁護士団体に所属する人権活動家だった。その上、朴槿恵、李明博の両保守派政権下で積もった弊害を清算する「積弊清算」を公約に掲げて当選した大統領だ。一方、人権派でありながらも、北朝鮮の金正恩独裁体制における人権侵害は無視し、ひたすら融和策に走る親北政権でもある。
朝鮮半島問題に詳しい麗澤大学客員教授の西岡力氏は世界日報社の国益ネット放送局「パトリオットTV」で、左派政権どころか、「今の憲法秩序を認めていない」「ろうそく革命政権」とまで断言する。要するに、文政権下の韓国では現在、左派革命が起きていると言うのだ。詳しくはパトリオットTVを見ていただきたい。
親北左派という点は、文政権を理解する上での重要ファクターであることは間違いないが、「亀裂深まる日韓 『徴用』判決の波紋」と題したクロ現には「親北」も「左派」という言葉も一度も出てこなかった。公共放送だからと、「中立」を装ったのかもしれないが、文政権のよって立つイデオロギーを知ることは現状分析の鍵である。そこに触れないのだから、案の定、番組は問題の深掘りがなされないまま終わっていた。
◆「積弊清算」に触れず
例えば、番組が冒頭に取り上げた韓国最高裁(大法院)の前長官が逮捕された問題。「太平洋戦争中の『徴用』をめぐる判決を、朴槿恵前政権の意向を受け不当に遅らせた職権乱用などの疑い」と説明するだけで、文氏が大統領選挙で公約に掲げた積弊清算にひた走って政権の求心力を高めていることにはまったく言及しなかった。
保守派の積弊清算と左派イデオロギーの二つの視点から分析すれば、単なる職権乱用に対する綱紀粛正を超え「粛清」の意味合いも出てくるではないか。その分析に説得力があるかどうかは視聴者が判断すべきことだが、それにはまず文政権についての正しい情報を提示すべきだ。番組はそれを怠っていた。
また、「元徴用工」問題で日本企業に賠償を命じる最高裁判決が出ていることについて、番組は「(請求権問題は)完全かつ最終的に解決された」とした1965年の日韓請求権・経済協力協定を覆すもので、「日韓関係を大きく揺るがす事態」となっており、日本政府も強く批判していると解説した。同時に、「日本政府がより謙虚な立場を取らなくてはいけないと思う。三権分立なので、司法の判断に政府は関与できない」とする文氏のコメントを紹介した。
◆人権派の最高裁長官
だが、ここでも番組は肝心な点に触れなかった。判決を出した最高裁の現長官は、地方の小さな裁判所長から大抜擢(ばってき)された人権派判事だったことだ。つまり、文氏は自らと同じイデオロギーの人物を最高裁長官に指名したのだ。
このため、人事への同意に当たって国会では、司法の中立性に疑問の声が上がっていた。そんな経緯を知れば、文氏の述べる「三権分立」は言葉通りに受け取れなくなる。意図的かどうかは分からないが、この点でも、番組は視聴者に十分な情報提供を怠ったと言える。
北朝鮮の核問題、中国の覇権主義への対応を迫られる日本にとっては、韓国との友好関係は非常に重要だ。番組の終わりに、NHKの政治部記者は「今回の対立は深刻だが、お互いに落ち着いて向き合い、議論を深めていく必要がある」と締めくくったが、左派イデオロギーの厄介さを知れば、あまりにも能天気な主張と言うほかない。
韓国の政権が左派イデオロギーに固まっている限り議論を深めるどころか、両国の友好関係そのものが難しい。その現実を踏まえて、日本が取り得る選択肢を考えるべきなのである。
(森田清策)