大坂なおみ選手の世界ランク1位に時代の目撃者としての幸福を語った産経

◆快挙を称賛する各紙

 日本人がノーベル賞を受賞したり、スポーツや芸術分野などで世界最高位を獲得した際の各紙論調を論評することほど楽しく気持ちいいことはない。称賛のほとんどに共感して盛り上がるのはサポーターのごとし。腕によりをかけた各紙の称賛コンテストを審査する当欄も、いつもと違って肩の力を抜いた論評で美酒を味わいたい。

 昨秋の全米に続いて全豪オープンと四大大会を連覇した女子テニスの大坂なおみ選手が28日に、世界ランキング1位に躍り出た。

 男女を通じてアジア勢初となる快挙を、各紙はそのままスポーツ史の中で特段に位置付けた。「日本のスポーツ史をまたしても塗り替える快挙だ」と毎日(27日付社説)。読売(28日付同)は「日本スポーツ史の中でも特筆すべき偉業を21歳の女子が成し遂げた」、小紙(同)は「日本テニス界の歴史に新たな1ページを加えた」とそれぞれ偉業をたたえたのである。

 これらに、もうひと味加えて表現したのが産経(27日付主張)と朝日(30日付社説)だ。産経は「女子プロテニス界に、新たな真の女王が誕生しようとしている。その輝かしい過程を今、目の当たりにしている。/時代の目撃者となれることは、観戦者として最大の幸福」だと今を生きることの幸せにまで踏み込んだ。こうした称賛については抑えた朝日は、代わりに決勝戦のフルセット激闘などが与えた感動の余韻に焦点を当てた。「いまも人々の間に余韻が残る。全米に続いて全豪オープンを制した女子テニスの大坂なおみ選手の活躍である」と。

◆人々を魅了する人柄

 もう一つ、各紙がそれぞれ言及したのが精神面の成長が大きいことと、今や大坂選手のプレーとは別に大きな魅力となった「なおみ節」についてだ。四大大会の優勝者スピーチとインタビューは、ファンにとって試合とは別の楽しみな儀式だが、大坂選手はこのささやかな時間に、まずライバルへの思いやりを忘れず語り、その後、飾らない率直な応答にユーモアが織り込まれて10倍楽しませてくれることだ。

 産経は「当意即妙のユーモアも大坂の人気を支えている」、「ちゃめっ気たっぷりの人柄は人々を魅了した」(毎日)、「コート上のインタビューは、ファンの大きな楽しみとなっている。/世界女王にふさわしい、華のある選手」(小紙)と、それぞれたたえた。

 読売と朝日は大坂選手の親しめる人柄について、ハイチ出身の父と日本人の母を持ち、米国で育ったことに触れて論じた。ややはにかんだ表情を残しつつ、思いを率直に口にする言動に、これまでの日本人にないものを感じた人は少なくなかろう。「豪快なプレーと、ちゃめっ気のある人柄が魅力に」「日本語よりも英語を流暢(りゅうちょう)に話すが、国民の多くが、親しみを感じて大きな声援を送った。グローバル時代ならではのスター性を備えている」(読売)と評価するが同感である。

 朝日は試合の中継画面の端にあるスコアに付く国旗(日の丸)や「アジア勢として初」という「くくりを超えて、その魅力は世界に広がった」「グローバル時代を象徴する存在だ」と大坂選手を見る。そして「優れた敗者がいてこそ勝者は輝く。楽しい『なおみ語録』は人気の的だが、その根底には、スポーツの本質を理解し、大事にする心が流れる」と説く。読売と同じことを言っているようでも、わざわざ「くくりを超えて」と付言する、こういうところがいかにも朝日らしい理屈とも言える。

◆コーチの手腕も評価

 産経は「すでに大坂は、国籍や肌の色を超えた世界のスーパースターになろうとしている」とまとめた後、次のように結ぶ。「それでもなお、好きな食べ物を聞かれて『すし、うなぎ、抹茶アイス』と答える愛らしさも兼ね備えたところが、日本のファンにはたまらない」と。そう、こちらはストンとふに落ちるのである。

 なお、読売と朝日は大坂選手の成長を語る中で、精神的支柱となったドイツ出身のコーチ、バイン氏の存在が大きいことを高く評価した。「個性を見極め、抑えつけず、選手に応じたアドバイスをする」(朝日)、「柔軟に能力を引き出している」のは「今の時代における選手と指導者の関係の理想型」(読売)という評価も妥当である。

(堀本和博)