キャッシュレス化は時代の潮流であり「乗り遅れるな」と主張する2誌
◆地方コンビニも導入
近年、キャッシュレス決済が注目を集めている。これまで商品やサービスへの決済といえば現金やクレジットカードが主だった。それが、スマートフォンや電子マネーなど新しい情報ツールによってキャッシュレス化が進んでいくという話である。
ちなみに、北海道を拠点に1000店舗余りを置くコンビニエンスストア「セイコーマート」は10月1日から電子マネー機能付きカード「ぺコマ」を導入した。本州大手のコンビニでは既に行われているシステムではあるが、地方拠点のコンビニでも電子マネーがスタートした。
同社では、今回の導入に対しては、「電子マネー機能を付けることで顧客の利便性を高めるとともに、店側では購買データの収集を高めることで商品の販売計画や商品開発、出店戦略の構築に活用したい」としている。現金での支払いがなくなるため、その分決済時間が短縮でき、店員の負担も軽減できるというメリットがある。
◆業務効率化に不可欠
ところで、こうしたキャッシュレス化に対して経済2誌が特集を組んだ。エコノミスト(10月9日号)は「キャッシュレスの覇者」、ダイヤモンド(9月29日号)は「乗り遅れるな!キャッシュレス」との見出しを立てる。両誌ともキャッシュレス化は時代の潮流と主張。エコノミストが「現金だけでなくクレジットカードもサヨウナラ。そんな時代の足音が聞こえ始めている」と言えば、ダイヤモンドは、「あなたはまだ気づいていないかもしれないが、キャッシュレス化はじわじわと広がっており、もはや時代の流れだ」と結論付ける。
ところでキャッシュレス化が注目される要因についてダイヤモンドは二つの点から指摘する。一つは外的要因。「2020年の東京五輪、25年の万博に向けて、さらにインバウンドが増えることが予想される。このままキャッシュレス化で後れを取れば、インバウンド向けのビジネスで大きな機会損失が発生する」と述べ、訪日外国人旅行者を取り込む上で不可欠だと強調する。そして二つ目が内的要因。「少子高齢化の進展で日本の生産年齢人口はすでに減少に転じている。一方で有効求人倍率は年々上昇しており人手不足が深刻化している」と説明、効率化を図る上でキャッシュレス化は欠かせないという。
そもそも、わが国においてキャッシュレス化について、以前から議論があった。日本政府は14年にアベノミクスを促進するための方策として打ち出した「日本再興戦略2014」において、キャッシュレス決済の普及による決済の利便性・効率性の向上を掲げている。その2年後の「同戦略2016」では、20年の東京五輪開催を視野に入れてキャッシュレス化を推進していくと提言。さらに昨年6月に発表した「未来投資戦略2017」には10年後の27年までにキャッシュレス決済比率を40%程度まで引き上げるという数値目標を掲げている。こうした政府主導の動きがキャッシュレス化の動きを加速させていることは間違いない。
現在、キャッシュレス決済比率が高いのは(いわゆるキャッシュレス化が進んでいる)のはアジア圏では韓国(89%)、中国(60%)、オーストラリア(59・1%)、米国(45%)などの国々。それに対して日本は18~20%程度なので10年後には現在の2倍くらいまでに伸ばそうというのが政府の思惑である。
◆公正なルール作りを
もっとも、キャッシュレス決済の高低にはそれぞれの国に事情があるようだ。よく言われることだが、中国でキャッシュレス化が進んだ背景には①偽札の横行など現金に対して国民の信頼度が低い②スマートフォンの普及によりモバイル決済の導入が進んだ―など、ある意味で特殊な要因がある。それに対して日本は長年、現金への信頼度が高く現金決済が主流であったことがキャッシュレス化を遅らせている。
こうしてみると、韓国や中国でキャッシュレス化が進んでいるので、「日本もキャッシュレス化に乗り遅れるな」という主張は的外れ。ドイツも日本と同じようにキャッシュレス化が進んでいるわけではない。
ただ、キャッシュレス化は人口減少や効率化を求める社会ニーズに沿って進展していくであろうし、時代の潮流であることは間違いない。肝心なことは電子マネーにしろ、QRレコードを活用したスマートフォンによる決済にしろ、キャッシュレス化が今後、利用する側の消費者が安心して使えるシステムとして構築されていくのかどうか、公正なルールつくりが求められている。
(湯朝 肇)