またも仮想通貨流出で業界にずさんな管理態勢の改善を求めた各紙
◆対策怠り流出阻めず
今度は金融庁が認めた「登録業者」からの仮想通貨流出である。
大阪市の仮想通貨交換業者の「テックビューロ」がシステムへの不正アクセスを受け、1時間余りの時間に70億円相当が外部に流出し、そのうち45億円分は顧客から預かった資産だった。
仮想通貨をめぐっては、1月に登録申請中のみなし業者だった「コインチェック」(東京)で580億円相当が流出。金融庁が立ち入り検査を実施し、行政処分を下すなどして業界の資金管理態勢の改善を求めていたばかりである。
この事件に対し、これまでに4紙が社説で論評を掲載しているが、いずれも厳しい論調が相次ぐ。
掲載日付順に各紙社説の見出しを挙げると、22日付産経「甘い管理を徹底改善せよ」、23日付読売「利用者保護の態勢が甘すぎる」、朝日「実態に即した規制を」、24日付本紙「業界のずさんな体質改めよ」――である。
各紙がそろって糾弾するのは、1月に前例があったにもかかわらず、不正アクセスに対して流出を阻めなかったリスク管理の問題である。
特に今回の事件では、14日に不正アクセスで流出したにもかかわらず、テックビューロがサーバーの異常を検知したのが17日で、被害を確認したのが18日だった。なぜ、すぐに流出に気付かなかったのか、「不正アクセス対策や人員などの体制に不備がなかったか疑問が残る」(産経)、「徹底した検証が求められる」(本紙)と言うわけである。
また、各紙が指摘するように、テックビューロはこれまでもシステム障害が多発し、金融庁から今回の事件で3度目の業務改善命令を出されている。読売が「資産管理の強化策を怠ってきた責任は極めて重い」というのも尤(もっと)もである。朝日も「不正アクセスを受けた被害者の面はあるが、登録業者としての資格を疑わざるをえない」と断じる。
しかも、被害に遭ったのは、1月のコインチェックと同様、インターネットに接続した状態で仮想通貨を保管する「ホットウォレット」で、これは顧客の入出金に素早く対応できる一方で、セキュリティーのもろさを指摘されていて、「その教訓が生かされなかった」(読売)のである。
◆実効的な規制必要に
朝日は事件発生後のテックビューロの姿勢にも疑問を呈す。同社は、流出した顧客資産は他社からの支援で補償し、経営陣は退く方針だが、これに対し同紙は「必要な措置だが、そもそもの説明責任が果たされていない。会見さえ開かず、流出の経緯や管理態勢の説明が不十分だ。財務状況など経営情報の開示も欠けている」と容赦ない批判を続ける。
同社に最も厳しいと言える朝日だが、「仮想通貨に使われる技術自体は、様々な応用が期待される」と、仮想通貨そのものについては大きな期待を寄せる。仮想通貨は当初は決済手段としての役割が想定され、現在、資金決済法で規制されているが、「昨年ごろから急速に資金が流入。業者も広告宣伝を強め、値上がりを期待した投機の対象になる『資産』として、もてはやされるようになった」(朝日)。
同紙は、今春の20カ国・地域(G20)の議論で仮想通貨の呼び方が「暗号資産」に変わったことや、金融庁の研究会で、現状に照らせば今の制度は不十分との見方が多いことを指摘。「投資家保護の視点を含めた見直しや、金融商品販売法の適用を望む声もある」として、「詰めの議論を急ぎ、実効的な規制を早急に実現してほしい」と、他紙には感じられない温かみのある提言を述べる。
だからこそ、「新技術に多少の失敗は付きものだ。だが、大金をやすやすと闇に流すような失態が続くのであれば、看過できない」(同紙社説冒頭)というわけで、「その芽を摘まぬためにも、適切な手を打つべき局面だ」というのもうなずける。
◆金融庁の監督責任も
ただ、金融庁に対しては、朝日を含め厳しい指摘が並ぶ。立ち入り検査を行い、行政処分をたびたび実施したのに、「それでも流出が防げなかった事実は重く受け止めるべきだ」「金融庁の検査が万全だったかどうかも検証が必要である」(産経)、「監督責任も、厳しく問われなくてはならない」(読売)など、これまた尤もな指摘である。
(床井明男)










