中国企業を介しての中国当局への重要情報漏洩の危険性を警告する日経

◆重箱の隅つつく論議

 この数週間、新聞の話題はもっぱら自民党の総裁選挙だった。結果は下馬評通り安倍晋三総裁が約7割の支持を得て、3選を果たした。党員票では安倍氏が55%、対抗馬の石破茂氏が45%獲得したが、これをめぐって石破陣営は「善戦」と自賛、安倍陣営は「どこが善戦か」(麻生太郎副総理)と突き放している。

 安倍首相自身は「03年の小泉総理の総裁選で小泉陣営の選対本部で全力を尽くしたが、得票は60%にとどまった。99年の小渕総理の得票も68%。しかし、今回はこうした過去の例を上回る、全体で7割近い得票を頂いた」と、圧勝との認識を示している。

 各紙の旗幟(きし)は鮮明で、朝日と毎日は「石破善戦」、読売と産経は「安倍圧勝」で、社の姿勢がここからも知れる(21日付)。朝日22日付の「ファクトチェック」は、安倍発言を取り上げ「〇」(正しい)としつつも、「候補数違い、単純比較には疑問」と安倍圧勝に水を差している。

 これに対して22日付の産経抄は、前回総選挙の党員票は石破氏が55%、安倍氏が29%だったから、「党員票で大きく伸ばしたのは安倍首相であり、石破氏は獲得率を減らしているというのが客観的な数字である」と、こちらは安倍圧勝と断じる。

 このように「客観的な数字」でさえも、新聞の思惑によって解釈が百八十度違ってくるのである。それにしても、こんな重箱の隅をつつくような論議をやっているのだから、日本は平和、いや平和ボケだと思わずにはおれない。

◆2社の参入禁じた豪

 さて、政治にはもっと重要なテーマがあるはずである。日経21日付「Deep Insight」で、同紙コメンテーターの秋田浩之氏が「無視できない豪州の警告」との問題提起をしている。豪州政府は8月、まもなく移行する次世代高速通信「5G」のシステムについて中国の巨大グローバル企業の華為技術(ファーウェイ)と中興通訊(ZTE)の参入を禁じる決定に踏み切った。重要情報が中国側に漏れかねないという理由からだ。

 秋田氏によれば、豪州の判断の決め手は中国が2017年6月に施行した国家情報法だという。同法は国内外での情報活動を強めるため中国が設けたもので、豪州当局が精査したところ「運用によっては、中国の民間企業に対し、当局が情報収集への協力を強いることができる」という結論に至った。両社は国家情報法に基づき、中国当局に協力させられる危険がある。

 さらに豪州では中国富豪から多額の資金を得た上院議員が南シナ海問題で中国を支持したり、中国の企業・団体から多額の献金が主要政党に流れたりする実態も明るみになった。大学にも中国から多額の寄付があり、反中の教授に圧力がかけられている。

 危機感を抱いた情報機関が与野党や大学にひそかに接触し、危険を強く警告した。既に英国も懸念を表明しているが、日本は何の措置も取っていない。それで秋田氏は「通信インフラを便利にするにあたり、安全保障上、どのような考慮が必要になるのか。日本政府は企業に正確な情報と判断を示すべきだ。その意味でも、オーストラリアの事例は参考になる」と論じている。

◆スパイ防ぐ法律なし

 こうした中国のスパイ活動については産経の「野口裕之の軍事情勢」が詳報している(7月30日付)。また本紙の読者ならお分かりのように「ワシントン発 ビル・ガーツの眼」が警鐘を鳴らし続けてきた。

 産経8月26日付は、政府は安全保障で米豪などと足並みをそろえ、ファーウェイとZTEの2社を情報システム導入時の入札から除外する方針を固めたとしているが、公式の発表はない。これは単なる通信事業の話ではなく、秋田氏が指摘するように安全保障上の問題だ。要するにスパイ活動にどう臨むかである。

 わが国には豪州のように中国の国家情報法を入念に精査したり、与野党や大学にひそかに接触し危険を強く警告したりするような「情報機関」が存在しない。海外ではスパイ行為を法律で禁止しているが、そんな法律もない。

 これらはモリカケ論争よりはるかに重要な政治テーマだ。朝毎がこうした論議から逃避する理由は何なのか。オーストラリアの事例を参考にすれば、それこそゾッとする。

(増 記代司)