LGBTへの「共感」に惑わされ疑問追及を放棄した「深層NEWS」

◆深層迫らず広告塔に

 多くのメディアが煽(あお)る“LGBT(性的少数者)ブーム”の中で、国文学研究資料館長で東京大学名誉教授のロバート・キャンベルがゲイ(男性同性愛者)であることを自身のブログで公表した。

 BS日テレの報道番組「深層NEWS」(今月11日放送)はそのキャンベルと、LGBTが働きやすい職場づくりを支援しているNPO法人「虹色ダイバーシティ」代表の村木真紀(レズビアン=女性同性愛者)をゲストに招き「LGBTと日本社会の壁」をテーマに議論を行った。

 LGBT当事者2人をゲストに招いたのだから、性的少数者への理解・共感を広めることは日本の社会は強くなるなどと、その主張を伝えるのは当然である。しかし、そうしたことは既に多くのメディアが伝えていることで、それよりもゲストに率直に疑問を投げ掛け、この問題について視聴者の深い理解を促すことの方が、メディアとしてのより重要な使命であろう。

 番組は、その姿勢を決定的に欠いていた。「BS日テレ、日本テレビ、読売新聞の3社がタッグを組んだ本格報道番組」(番組ホームページ)という宣伝文句とは裏腹に、深層に迫るどころか、LGBT運動の広告塔に落ちてしまっていたというのが筆者の印象である。

 例えば、キャンベルは、制度も含めLGBTに対する壁が取り払われることについて、こんなことを言った。「マイナスはない。視聴者の中には、大切なものが壊れるのではないか、日本の伝統的な家族であるとか、コミュニティーであるとか、漠とした不安を感じている人がいると思うが、それはない。むしろプラスになる」

◆家族制度崩れる不安

 番組には聞き手として、日テレ報道局のキャスター、読売新聞編集委員、日テレアナウンサーの3人がいたが、キャンベルの発言については、なぜか誰も疑問を挟まなかった。日本においては社会の強さを支えているのは伝統的な家族ではないのか。なのに、結婚した男女つまり夫婦と、同性カップルを同等に扱うようになれば、家族制度が崩れ、社会が弱くなるのではないか、と不安に思う視聴者は少なくないはず。視聴者に代わって、ゲストに疑問をぶつけるのは報道する側の責任であるが、それが放棄されていたのだ。

 さらに問題だったのは、LGBTに対する理解を広げるために社員向けの研修会を開いている野村證券の取り組みを紹介した後、「国でなければできないことは?」と問われた村木のコメントだ。「相続、社会保障の部分、あとは子供を持つ権利とかですね。これは民法が変わらないとどうしようもない」

 これに対して、キャスターの今野宏明は「そのことが一つ一つ認められたとして、他の人に不利益はあるのですか」と、問題ないじゃないかというニュアンスでコメントする始末。そして、他の2人もまったく突っ込みを入れないのだから、唖然(あぜん)としてしまった。

◆子供の苦悩を考えず

 ちょっと考えれば分かることだが、同性カップルに子供を持つ権利を与えることは重大な問題をはらむ。具体的には養子を取るか、人工授精による出産を認めるのかということが主な論点となるが、レズビアンのカップルであれば、第三者から精子の提供を受け、どちらかが人工授精で出産することになる。

 これは「非配偶者間人工授精(AID)」と呼ばれ、不妊の原因が夫にある夫婦に認められているものだ。しかし現在、自分がAIDで生まれたことを知って、父親が誰か分からない、あるいは自分は親のエゴのために人工的につくられたなどと苦悩を背負う子供が少なくないことが大問題となっている。ゲイのカップルとなるともっと深刻である。子供を持つ権利とは、いわゆる“借り腹”を認めることも含むのである。

 だから、「他の人に不利益になるのですか」などとのんきなことを言っている場合ではないのである。キャスターらに同性カップルに子供を持つ権利を与えることの重大性が思い浮かばないのは、少数者への「共感」という美名に惑わされ、家族制度が壊れることに対する問題意識が薄くなっているからなのだろう。

 LGBT当事者たちが主張する「生きづらさ」を探っていけば、背景には一夫一婦の結婚制度や伝統的な家族制度にたどり着くことが多い。彼ら彼女たちの生きづらさを取るために、家族制度を変えたらどうなるのか。それを探って必要なら警鐘を鳴らすのがメディアの責任だが、それを放棄しているメディアが多いのが嘆かわしい。(敬称略)

(森田清策)