引退した安室さんを巻き込んだ沖縄県知事選での謀略戦を伝える新潮

◆“小泉効果”吹っ飛ぶ

 1週間後(9月30日)に迫った沖縄県知事選挙。さる関係者が「いつも最後に何か出てくる。事故だったり、事件だったり」と顔を曇らす。事故・事件で一気に選挙戦の流れが変わってしまうということが過去、何度かあったそうだ。「何も起きてくれるな、起こしてくれるな」と心配しているというのである。

 単なる地方の県知事選ではない。日本のみならず東アジアの安全保障に影響を及ぼす可能性のある選挙だ。そのため、政党幹部が続々と応援に入り、縁故者のある者は本土の市会議員までが動員されて、激しい戦いが展開されている。

 話はガラッと変わるが、沖縄が生んだ“平成の歌姫”安室奈美恵さんが引退した。自身の誕生日(9月16日)の前日15日、宜野湾市の沖縄コンベンションセンターでラストコンサートを行い、この日ばかりは選挙戦も色褪(あ)せるほど、安室フィーバーが沖縄を包んだ。

 “間が悪く”というか、その日に応援演説に入ったのが自民党筆頭副幹事長の小泉進次郎氏だ。街頭演説に立ったのは、コンサート会場へ出るシャトルバスの発着所にして、目の前がビル壁面を覆う巨大な安室さんの懸垂(けんすい)幕を垂らしている琉球新報社。進次郎氏も「安室さん、本当にお疲れ様でした」と声を掛けざるを得なかった。

 前半戦の目玉にしようとしていた保守陣営は「これで“小泉効果”も吹っ飛んでしまいました」としょげ返ったという。こう報じるのは週刊新潮(9月27日号)だ。知事選で「安室カード」が出てくるのではと、保守サイドが戦々恐々としていることを伝えている。

◆支持表明で「万」の票

 安室さんは県民栄誉賞を故翁長雄志知事から受賞。「翁長シンパ」と報じられた。若い女性に圧倒的人気のある安室が「翁長後継者」を支持すると一言でも漏らせば、否、そぶりを見せただけでも、選挙戦の流れは一挙に「オール沖縄」側に傾く。

 同誌は「『安室さんがはっきり味方についてくれれば、それだけで「万」の票が得られますからね』とは、玉城陣営のさるメンバー」と書いているが、実際に「安室の支持」が喉から手が出るほど欲しいのだろう。

 そこで出てくるのが自民党が全力でそれを阻止しようとしているという話だ。安室さんを説得するために、「自民党の竹下亘・総務会長が、親族であるタレントのDAIGOの仲介で、安室と面談した…」と、新潮は「沖縄在住のジャーナリスト」の話を伝えている。

 続きがある。「その席で、竹下さんは“国民栄誉賞授賞”の可能性をちらつかせて、安室に沈黙を迫ったというのです」と。「さもありなん」と思わせる。この手の話は思わせただけで“勝ち”だ。真偽が明らかになっても、選挙は終わっているころだ。

 この他にも選挙戦に絡む“謀略”はチラシやインターネット交流サイト(SNS)を通じて飛び交っているという。同誌は「まだまだ序の口」と言い、今後どんな謀略が繰り出されてくるか分からない。さる人が心配する「いつも最後に出てくる何か」が今回は「安室」になる可能性もある。

◆若年層に意識の変化

 沖縄知事選について週刊朝日(9月28日号)も取り上げた。「オール沖縄」陣営の候補者について書いている。興味深いことに、革新陣営がこれまで訴えてきた沖縄の歴史観が、最近は若い人々には通じなくなっているというのだ。

 「本来、誰も米軍基地など望まない、ということが暗黙の了解になってきたが、それも若年層ではもはや違うのではないか」「(基地建設への)反対運動(こそ)が地域を分断すると敵視し、積極的に米軍基地に寄り添う人々が多数を占めるようになっているのではないか」

 これは「沖縄国際大の佐藤学教授」が地元紙に寄稿した文章を同誌が引用したものだ。しかもこの変化は「安室奈美恵以後」と区分されるという。沖縄出身の歌手やタレントが多数活躍するようになった。特に安室さんは一世を風靡した大スターだ。彼女と彼女のファン層には「対本土の被差別体験やコンプレックスについて、(略)ネガティブな意識がほとんどなくなった」と分析している。

 「安室と選挙」が意外なところで交差したのはおもしろい。若年層の保守化が言われているが、そのことに着目して沖縄知事選を見た朝日の分析は、今後、もっと深められるべきだろう。

(岩崎 哲)