米中の第2弾貿易制裁・報復に対話継続を訴えるしかない各紙社説

◆対米懸念を示す毎日

 読売「摩擦の泥沼化回避に力尽くせ」、朝日「拡大回避へ対話続けよ」、毎日「混乱広げる不毛な根比べ」、日経「貿易摩擦緩和へ米中対話の窓口閉ざすな」――

 米国が中国の知的財産権侵害を理由に、160億㌦相当の輸入品に25%の追加関税を課す第2弾の制裁措置に踏み切り、中国も同規模の報復措置を発動したことを受けての25日付社説の見出しである。

 これまでに保守系紙2紙、リベラル系2紙の4紙が社説で論評を掲載したが、論調は双方とも、世界1、2位の経済大国間の貿易摩擦だけに、両国に「不毛な戦い」の自覚と緩和へ向けた一層の努力を促すものになった。

 中でも、対米批判の論調が最も強かったのは毎日である。冒頭こそ、「米中両大国の不毛な根比べは世界経済を混乱に巻き込むだけだ」と米中両国を非難したが、トランプ米大統領が9月にも第3弾の、それも対象が第1弾、第2弾を合わせた5兆円超から一気に20兆円超に膨らむ制裁を検討していることを挙げ、「11月の中間選挙に向けて、対中圧力を強め、成果をもぎ取ろうとしている」ため、「対立はエスカレートする恐れがある」として対米懸念を示す。

 米国のそうした動きについて、毎日は「トランプ政権が強気なのは、経済力で中国をしのぐからだ。力勝負の持久戦に持ち込めば、中国が先に音を上げると踏んでいるのだろう」と分析。強硬路線は制裁第2弾の応酬のさなか、約3カ月ぶりに再開された貿易協議にも反映され、「トランプ大統領は軽視し、めぼしい進展はなかったようだ」とした。

◆先端技術めぐる争い

 毎日とは異なる視点で、米国を批判したのは読売である。

 読売は再開された貿易協議に加え、11月に首脳会談を開く案も浮上しているとして、「こうした枠組みを活用し、事態の打開に向けた機運を高めることが大切になる」としながらも、「問題は、これまでの協議で、『ここまで中国が対応すれば、矛を収める』という落とし所を、米国が明示してこなかったことだ」とした。摩擦回避へ有効な話し合いを重ねていくには、「戦いを仕掛けた米国側が、先に具体的な争点を提示すべきではないか」というわけである。

 確かに、一理あるが、今回の知的財産権の侵害を理由にした米中貿易摩擦は、読売も指摘するように、背景にデジタル技術をめぐる中国との覇権争いがある。

 デジタル技術を核とした産業振興策は、中国の国家戦略の根幹をなしていて、そのために中国は、巨額の補助金などで自国の産業を育てようとしている。それが米国には公正な競争環境を歪(ゆが)めていると見え不満が根強いが、中国としては米国の要求を簡単に受け入れることはできない、というわけである。

 日経はさらに、「経済・軍事両面の覇権争いが絡む」として、「双方とも安易に妥協できず、制裁と報復の連鎖を断ち切る方法が見当たらない状況だ」と解説するが、その通りである。

◆通貨戦争に飛び火も

 難しい状況の中、解決策はあるのか。公式対話の再開に、日経は「好ましい動き」、朝日も「評価できる」としたように、現状は「対立緩和の糸口を探る場は閉ざさず、歩み寄る努力を続けていくしかない」(朝日)ようで、冒頭に示した見出しの通りである。

 ただ対話は、欧州連合(EU)との間では、7月下旬に自動車を除く工業製品で関税を下げる交渉で合意できたが、前述のような事情を持つ中国と、同じような合意が可能なのかどうか疑問が残る。

 そうした懸念を自覚しているのか、朝日は「中国側にも改めるべき点は多い」として、いまだに高い関税の引き下げや、知的財産のより厳格な保護、補助金など政府による企業支援の見直しなど、「世界第2の経済大国にふさわしい政策への転換が求められる」と強調したが、その通りで、この点は大いに評価したい。

 日経が指摘するように、米国はここにきて、中国が人民元を安値に誘導していると批判しており、「両国の貿易戦争が通貨戦争に飛び火する恐れもある」現状である。

 景気の減速、ビジネス環境の悪化、世界経済への先行き不透明感など、米中貿易戦争が続くことによるリスクが少しずつ現れているが、如実になるまで解決は無理なのか。

(床井明男)