米欧首脳の摩擦回避を評価するも管理貿易化に警鐘鳴らす日経、産経

◆貿易戦争は一時停戦

 トランプ米大統領と欧州連合(EU)のユンケル欧州委員長が、ホワイトハウスで会談し、工業製品の関税撤廃に向けて新たな貿易協議を始めることで合意。米国が輸入制限を検討する自動車分野の結論は先送りされ、さらなる関税引き上げの応酬は棚上げされる見込みで、貿易紛争は“一時停戦”となった。

 社説で論評を発表した各紙はおおむね、一時停戦を評価するものの、協議の行方、特にトランプ氏の今後の出方を不安視するものや、管理貿易化への傾斜に警鐘を鳴らすものなどの違いを見せた。

 先月27日付読売社説は、世界経済を牽引(けんいん)する米欧の対立が激化すれば、貿易や投資の停滞を招き、金融市場にも大きな混乱を引き起こしかねないとし、「制裁の回避へ、両者がひとまず歩み寄ったことは歓迎できる」と評価し、今後も、双方が関税撤廃交渉などに前向きに臨み、摩擦解消への機運を盛り上げていくことが大切だ、と強調した。

 もっとも、そうは言うものの、気になるのはトランプ氏の今後の出方で、「相手を恫喝(どうかつ)して譲歩を引き出すトランプ流の手法が、大きく変わるとは思えない」と指摘し、協議で成果が得られなければ、制裁の棚上げを撤回し、再び強硬派姿勢に転じる公算は大きいと懸念を示す。

 読売とほぼ同意だが、トランプ氏に対し、懸念というより疑念を示しているのが毎日(同日付社説)。同紙も今回の会談で、とりあえず正面衝突という最悪の事態を回避し、貿易自由化を図る方針を示したことも評価できるとしたが、「問題は、米国が国際ルールに背く高関税を撤回していないことだ」と強調する。

 EUと交渉をしているうちは控えるとしただけ。不調に終われば、発動の可能性がある。高関税をちらつかせ、米国に都合のいい譲歩を引き出す狙いではないか――というわけで、毎日は「EUは今後の交渉で米国の圧力に屈することなく、米国にルールの順守を求めてほしい」と主張するが、もっともである。

◆車への高関税回避を

 「米国が車の高関税を避ける一歩になれば」との見出しで社説(同日付)を掲げた日経も、「これ以上の制裁や報復を自制し、対話を通じて貿易不均衡の是正を目指すのは妥当」「米国とEUが衝突を避け、緊張の緩和に動くのは歓迎」とした。

 国際通貨基金(IMF)によると、米国が鉄やアルミ、中国への制裁に加えて各国の自動車にも高関税を課し、金融市場の混乱まで誘発した場合、世界の経済成長率を0・5ポイント押し下げるといい、「これほどの危険は冒せない」からだ。

 日経は、米国とEUはお互いが踏み切った制裁と報復を撤回し、自動車の高関税を回避する方向で妥協点を探るべきで、これを機に米国は日本やカナダ、メキシコなどへの発動も自制してほしい、としたが、ただ、それで摩擦を回避すればいいというわけではないようである。

 「輸出の数量規制や為替相場の監視強化などを要求したり、のんだりするのでは困る」――管理貿易化傾斜への警鐘である。自由貿易の原則を逸脱した形で交渉が決着すれば、米国と日本との新たな通商協議「FFR」や、米国がカナダ、メキシコと進める北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉にも禍根を残しかねない、という同紙の懸念には同感である。

◆中国を利する米孤立

 この点で、同様の指摘をしたのが産経(29日付主張)。今回の米欧首脳協議で、EUは米国産の大豆や液化天然ガス(LNG)などの輸入を拡大するが、「管理貿易の手法を強めるのではなく、自由で公正な通商関係を構築すべきである」と注文を付けた。

 産経は、米国への対抗措置を控えてきた日本の姿勢にも注文する。今回の米欧歩み寄りの背景には、EU側が報復関税など強気の対米外交を貫いたこともあるからとして、「この点を見極めて、米国の理不尽な振る舞いに毅然(きぜん)と対処すべきである」としたが、産経らしい指摘である。

 また同紙は、不公正な貿易慣行を一向に改めず覇権主義に向かう中国に対し、日米欧は共闘すべき関係にあるとして、「米国の孤立が中国を利することのないよう、日欧が結束して米国への働きかけを強めることが大事である」と訴えたが、これまた同紙らしい。

(床井明男)