TPP11、自由貿易の恩恵を広げよ
米国を除く環太平洋連携協定(TPP11)の首席交渉官会合が開かれ、11カ国は早期発効を目指すとともに、協定発効後の参加国拡大に向けて準備を加速することで一致した。
TPP11をめぐっては、メキシコと日本に続きシンガポールが国内手続きを完了した。来年初めにも発効する見通しだ。
保護主義牽制の狙いも
会合では協定発効後、新規加入を希望する国・地域に物品関税交渉を認める一方、貿易・投資ルールは現状の「高水準」の受け入れを求めることを確認した。議長国を務めた日本は、TPP11や欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)など多国間の自由貿易体制を築き、米国の保護主義的な政策を牽制(けんせい)したい考えだ。
トランプ米大統領が昨年1月に離脱を表明したことを受け、TPPは一時、空中分解の危機に直面。だが、知的財産ルールなどの凍結を22項目に抑えるなど、日本が主導する形でTPPの枠組みを維持し、今年3月に署名に至った。「アジア太平洋地域の21世紀の貿易・投資ルール」作成を目指す安倍晋三首相のリーダーシップがあったからに他ならない。
世界の国内総生産(GDP)の13%、域内人口5億人をカバーし、経済規模は東南アジア諸国連合(ASEAN)の4倍とされる。
国際通貨基金(IMF)の見通しでは、TPP11の域内GDPは23年には18年比26%増の14・3兆㌦になる。参加国の拡大で自由貿易の恩恵を広げていきたい。
新規加入には、タイやコロンビア、英国などが前向きだ。TPP参加国はこれまでのところ環太平洋地域に限られているが、参加条件に地理的な制約はない。EUを離脱する予定の英国が加われば、全世界に占めるGDPの割合が13%から17%に高まる。
トランプ政権は中国から輸入するハイテク製品に25%の追加関税を課す制裁措置を発動。中国も報復関税を実施したことで両国は「貿易戦争」に突入した形だ。だが高関税は、生活必需品、原材料の値上がりなどで両国の消費者と企業に負担を強いることになる。
日本はTPP11やEUとのEPAなどを通じて、米国に自由貿易の利点をアピールする必要がある。もちろん、競争を強いられる国内農家などへの目配りを忘れてはならない。
一方、日本や中国、ASEAN加盟国など16カ国が参加する東アジア地域包括的経済連携(RCEP)は年内妥結を目指している。
だが、貿易自由化の度合いには参加国の間で大きなばらつきがあり、TPP11のような高い市場開放水準で一致するのは難しいとみられている。
米復帰に向けた備えを
TPPには、地域で影響力を強める中国を牽制する目的もある。域内の緊密な経済関係により地域の安定を促進すれば、安全保障面でも大きな役割を果たし得る。
その意味で、日本は米国の復帰にも備えつつ、TPP11の参加国拡大に向けて取り組む必要がある。