大企業製造業2年ぶりの景況悪化にも日経が説くのは「構造改革の推進」

◆簡単でない体質強化

 大企業製造業で景況感が2年ぶりに悪化した。日銀が2日に発表した全国企業短期経済観測調査(短観)が明らかにした調査結果である。

 これについて、翌3日付で読売と日経の2紙が、4日付では本紙が社説で論評を載せた。

 見出しを挙げると、読売「日銀短観悪化/環境変化への耐性を高めたい」、日経「企業は今こそ構造改革を推進せよ」、本紙「企業景気/保護主義に警戒感強まる」などである。

 読売や本紙などに比べ、楽観的だったのは日経で、冒頭は「企業の景況感改善の勢いに若干の陰りが浮かんできた」である。

 原材料高や人件費の上昇が重荷になって、大企業製造業の業況判断指数が前回調査より2ポイント低下したが、「ただし指数の水準自体はまだ高く、景気が変調をきたし始めたとみるのは早計だろう」という判断である。

 それより、金融・為替市場の変動や貿易摩擦が深刻化する懸念など先行きには不透明要因が山積している、として見出しにある通り、「企業は今こそ生産性向上につながる構造改革を加速し、将来の逆風に耐えられる収益体質を固めるべきだ」と、いつもの構造改革推進論を展開する。

 確かに正論とは思うが、要は為替や海外要因の影響を受けにくい収益体質を構築せよということなのだが、言うは易(やす)く行うは難しである。

 これは以前から求められてきたことであり、結果として果たされずにきたわけである。これが可能となるには、国内景気が自律的な内需主導の拡大を続けることが大きな条件になるが、現状はどうだろう。

 高度成長期の「いざなぎ景気」を超えたとはいえ、力強さに乏しく、相変わらず、海外経済の好・不調の影響を直に受けやすい状況である。

◆消費税増税を楽観視

 もう一つ、楽観さが気になるのは、2019年秋の消費税率の引き上げである。

 日経はこの消費税増税のため、「今年度の景気動向は重要だ」と強調し、この点は同感なのだが、「ただし政府は財政支出を伴う場当たり的な景気対策は慎むべきだ。着実で息の長い経済成長を実現する主役はあくまで企業である」と説くのである。

 これも一見その通りと思えるのだが、同紙がこの社説で取り上げなかった二つの点、すなわち、大企業全産業の18年度設備投資計画が前年度比2・3%増と低調である点と、大企業の18年度経常利益計画が製造業、非製造業とも減益見通しになっている点でも、「企業が成長実現の主役」と言えるのかどうか。

 さらに加えるなら、消費税増税への楽観視である。同紙が不可欠と説き、実施を強く支持した消費税増税は、1997年度と2014年度の実施後、経済へ大きな悪影響をもたらしたが、同紙には悪影響が過小評価だったことへの反省がいまだにないことや、経済への影響が予想以上に大きかったことによる対策を「場当たり的な」と批判している点である。

 読売も、日経と同様の意味で、「環境変化への耐性」を求めたが、「省力化のため、ロボットなどの活用」や「新たな需要を生み出す前向きな投資に知恵を絞ってほしい」などと、より具体的である。

◆朝毎産など論評なし

 政府、日銀への要望では、日経、読売とも政府には民間活動の後押し・側面支援、特に訪米する安倍晋三首相にはトランプ大統領との首脳会談で自由貿易の重要性、輸入制限策の弊害を説くこと、日銀に対しては金融正常化に向け、「景況感を敏感に捉えた柔軟な舵(かじ)取り」(読売)、「市場との丁寧な対話を通じ、混乱を未然に防ぐ努力」(日経)などを求めた。

 本紙は「現状、政府・日銀にできることは限られている」として「状況を注視し成長力強化に地道に取り組むべきである」としたが、物足りなさが残った。

 ただ、日経が前述の通り、景気変調の始めと見るのは早計としたのに対し、本紙は「景況改善の流れが止まり、踊り場に入りつつある懸念も出てきた」と景気認識に違いを見せた。

 景気が微妙な段階に差し掛かっているのかどうか、という3月の日銀短観に、朝日、毎日、産経、東京は4日までに論評はなし。先の3紙だけではやはり、さみしい限りである。

(床井明男)