米政権の鉄鋼輸入制限に「短慮」「危険な決定」と強い批判の読売、日経
◆貿易戦争になる恐れ
読売「報復合戦を引き起こす短慮だ」、日経「米政権は貿易戦争の危険を冒すのか」、東京「安倍首相は自制促せ」――。
米国のトランプ大統領が1日、鉄鋼メーカー幹部らとの会合で、鉄鋼とアルミニウムの輸入制限、具体的には同国が輸入する鉄鋼に25%、アルミニウムには10%の関税を課す方針を明らかにしたことを受けて、3日付社説で論評した3紙の見出しである。
東京は、事の直接の原因とは関係のない「安倍首相」を見出しに持ち出すなど、いやらしさを感じさせるが、読売や日経の方は直接的でスッキリしている。ただ、その中身はすこぶる厳しいものになっている。
読売は冒頭、「選挙での支持をつなぎ留めるための短慮ではないか」と投げ掛け、日経も「ルールに基づく通商秩序を乱し、貿易戦争につながりかねない極めて危険な決定である」と断じ、「改善傾向にある世界経済への悪影響も懸念される。撤回を強く求めたい」と続ける。両紙の危惧は、もっともである。
トランプ大統領が方針を示した輸入制限は、安全保障上の脅威を理由にした米通商拡大法232条(国防条項)に基づくものである。しかし、日経が指摘するように、輸入増加が米国の安全保障に悪影響をもたらしているとの見方は少なく、「実際は国内業者の支援を目的にした保護主義的な措置とみていい」だろう。読売社説の冒頭の言と同意である。
◆自由貿易体制に逆行
その読売は、「安全保障上の脅威を挙げたことも問題が大きい」と指摘する。世界貿易機関(WTO)は例外的に安全保障上の理由による貿易制限を認めているが、「米国防総省が資材調達難を否定するなど、トランプ氏の主張に説得力は感じられない」ため、WTO協定違反に問われる可能性がある、というわけである。
何より問題なのは、両紙が指摘するように、方針が決定された場合、「報復合戦」(読売)あるいは「貿易戦争」(日経)といった事態に発展しかねない危険性があることである。現にトランプ大統領の方針表明を受け、欧州連合(EU)やカナダは影響が及ぶようなら直ちに報復措置を取ることを明らかにし、中国も示唆しているからである。
読売が「対抗措置の撃ち合いは、米国が戦後一貫して進めた自由貿易体制を逆行させる。米国自ら歯車を逆に回すのは誤った判断だ」と言うのも道理である。日経は「今回の決定は米政権の本格的な保護主義化の第一歩となる可能性がある。そうならば世界にとって非常に憂慮すべき事態である」と心配するが、これも決してオーバーな話ではあるまい。
◆中国にも是正求める
軍事的な側面での警戒ばかりでなく、経済・通商政策の面でも中国への批判はトランプ政権内で強いものがある。日経は、中国に投資する企業に対する事実上の技術移転の要求や知的財産権の侵害、鉄鋼メーカーを含む国有企業に対する補助金などは確かに問題と指摘。「こうした中国の不公正な措置には、日米欧などが一体となって方向転換を求めるのが効果的」なのに、今回の鉄鋼への高関税措置(の方針)は「中国に不公正な慣行を見直すよう促す国際的な結束を乱すだけだ」と強調するが、その通りである。
この点で、読売は「米国の措置とはかかわりなく、健全な自由貿易の発展のため、中国が自主的に鉄鋼過剰生産の是正を進めることも大切だ」と指摘し、主要20カ国・地域(G20)首脳会議などで過剰生産設備の整理を公約してきた中国政府の対応にクギを刺しているが、忘れてはならない視点である。
トランプ大統領の方針には、自動車や航空機など鉄鋼ユーザーのメーカーが強く反対し、同政権が実現した大型減税の効果が一部失われるとの懸念も出ている。「消費者への価格転嫁などを通じて米国経済にも打撃を与える」(日経)わけで、中長期的に見て同大統領が掲げる「米国第一主義」に逆行しないのかどうか。
今回の輸入制限の方針がいかに問題が多いかをいち早く明らかにした両紙社説である。
東京は、内容的には読売、日経と大きく異なるものではないが、取った見出しで質を下げた。
(床井明男)