黒田日銀総裁再任で2期目5年間の課題・責任に言及した各紙社説
◆産経など続投を評価
読売「日銀緩和に問われる柔軟姿勢」、朝日「『次の5年」国会で語れ」、毎日「代えられない政府の事情」、産経「路線継続の成果問われる」、日経「再任後の黒田日銀総裁が背負う重い課題」、東京「問題を先送りするだけだ」――。
4月8日に任期切れとなる日銀の黒田東彦総裁について、政府が再任の人事案を国会に提出したのを受けての各紙17日付社説の見出しである。
列挙した通り、黒田氏再任に明確に反対したのは東京だけ。他は産経が「景気回復を成果としたい政権にとって無難な判断」とし、日経が「異例の金融緩和を始めた黒田氏にその仕上げと出口も託すという意味では妥当な選択」とした以外は、読売も朝日、毎日も評価の判断はなかった。
毎日は「現状維持の人事」とみて、評価というより「代えられない政府の事情」を分析し、読売と日経は、日経社説見出しの通り、再任後の黒田総裁が抱える課題について語るものとなっている。
評価の言葉こそなかったものの、読売は「異次元緩和の継続でデフレ脱却を果たすという政府の明確な意思表示」と、57年ぶりとなる今回の異例の続投を前向きに捉えている。産経が「景気回復を支えてきた手腕を評価し、緩和路線の踏襲に期待しているためだろう」と評価したのと同様の意味で、「『黒田バズーカ』と評された大胆な金融緩和でアベノミクスを支えた手腕によるのは間違いない」(読売)ということである。
◆異次元緩和に副作用
ただ、そういう読売も、「黒田氏を交代させれば政策方針の転換と受け取られ、金融市場の動揺を招くデメリットも意識したとみられる」と毎日が分析するような「政府の事情」にも言及する。それだけ、異次元緩和に「行き詰まりの兆しが出ている」(読売)ためで「問題」(同)になっているからである。
行き詰まりとは、各紙が指摘するように、①依然2%の物価目標に程遠い②日銀が金融緩和で買い入れた国債の保有分が発行残高全体の4割に達し健全な国債市場の形成を阻害している側面がある③マイナス金利に踏み込んだ超低金利が、銀行の収益力低下につながり、かえって融資を慎重にさせている―など。「緩和の副作用は、今後ますます増幅する懸念が拭えない。政策決定では十分な目配りが要る」(読売)というわけである。
毎日が指摘する「政府の事情」には、読売が指摘する金融市場の混乱を避けるという経済的側面もあるが、「安倍首相にとって、自民党総裁3選、そして宿願の憲法改正を果たすうえで、そうした混乱は何としても避けたいということだろう」とまで含めるのは、いかがなものか。
◆朝日も反省の弁必要
今回の黒田氏再任の人事案に、一日の長ありと思わせる論評を見せたのは、やはり経済紙日経である。2期目の黒田氏が背負う課題について、「デフレ脱却を確かなものにすると同時に、異例の金融緩和の後始末、つまり金融政策の正常化への道筋を描くことも求められる」と簡潔に示す。
デフレ脱却には業績の好調な企業が賃上げを進め、個人の所得環境が改善し、物価も上昇するという好循環につなげることが必要になり、かつ、いずれ来る金融政策の正常化への道筋について説明し、「市場との対話を円滑に進めることが求められる」(日経)ということである。
ただ、日経に若干物足りなさを感じるのは、「円滑な市場との対話」の難しさについての言及がない点である。
読売が前向きに捉えたのとは対照的に、厳しく見たのは朝日である。金融緩和でインフレ率はマイナス圏は脱したが、2%の物価目標の達成時期を6回も先送りし、「5年たっても実現できていない責任は重い」と指摘。次の5年でも同様の事態を繰り返す恐れはないのか、景気の悪化局面で打つ手はあるのかなど、国会で黒田氏らに納得のいく説明を求めたいとした。
さらに利上げに転じる「出口」の局面で、買い込んだ450兆円の国債に巨額の損失が出る可能性や、将来の金融・財政政策に不透明感が増すなど「こうした問題についても、十分な説明が必要」とも。これらの指摘には一理ある。
もっとも、物価目標が達成できていないのには、同紙も主張した14年の消費税増税が少なからず影響を及ぼしており、日銀を責めるのなら、朝日にも反省の弁が必要である。
(床井明男)