相次ぐ企業不正の原因に経営陣の無責任体制を指摘する読売・日経

◆日本製品の信頼失墜

 おいおい、これで日本の未来は本当に大丈夫か? 不安が大きく広がる事態である。神戸製鋼所や日産自動車、SUBARU(スバル)という日本を代表する企業で明らかになった品質管理の不正は、三菱マテリアルや東レの子会社にも広がり、負の連鎖が続いている。

 「日本の製造業が築いてきた製品への信頼が揺らいでいる」「問題の根にあるものを改めなければ信頼回復はない」(日経社説4日付)と、まさに深刻な事態である。新聞も全紙が論調(社説、主張)を掲げて警告を発した。掲載日付順にタイトルから紹介すると、次の通りである。

 読売「経営陣の品質軽視が目に余る」、毎日「企業不信招く深刻な事態」、小紙「日本製品への信頼揺るがすな」(以上11月29日付)、朝日「品質管理を立て直せ」(朝日、同30日付)、日経「日本の製造業の信頼揺るがす品質不正」、産経「産業界あげて襟をただせ」(以上12月4日付)。

 非鉄金属大手の三菱マテリアルの3子会社は、ゴム、アルミなどの製品を納入先の注文した品質基準に達しない測定値を書き換えて出荷。東レの子会社もタイヤ素材などの品質データを改竄(かいざん)していたのである。製品は航空機や自動車、原子力発電所などの部品として使用されているから影響は大きい。安全上の問題は早急に徹底した安全確認が求められるが、仮に大丈夫だったとしても、納入先や消費者への重大な裏切りであることに変わりはない。

◆現場を軽視し丸投げ

 加えて、三菱の子会社は今年2月に不正を把握した後も10月まで出荷を続け、東レ子会社は不正を知ってから1年4カ月も公表しなかったというあきれた実態も露呈した。

 それだけに「品質保持への責任感の欠如は目を覆うばかりだ」(読売)、「耳を疑いたくなる説明をしている」(毎日)、「責任を果たそうという意識がうかがえない」(朝日)などと経営陣の情報開示に後ろ向きな姿勢を指弾。産経までが「認識の甘さはあきれるばかり」「悪質このうえない」「不正の隠匿と批判されても仕方あるまい」などと舌鋒鋭く迫ったのは当然である。だが、深刻な問題だ、問題だ、と騒ぐだけでは社説の役割を果たしたとは言えない。

 問題は日本のモノ作りをどう立て直すのか。そのためには今の時点で分かっている問題点の洗い直しにまで踏み込んで具体的に指摘することが欠かせない。

 その意味で読売の「一連の不正は、品質管理を現場に丸投げしてきた経営陣の無責任体制が生んだと言える」との指摘は参考になる。日経はさらに詳しく「不正の原因究明は途上だが、弁護士による日産の報告書などからは、上層部が現場の実情を知ろうとしていなかった様子がわかる」と日産、神戸製鋼などにみられる現場軽視と現場丸投げの企業体質の問題点を見いだしている。その上で「現場に無理がかかりやすい構造が不正の土壌となった」と指摘したのは妥当な分析であろう。三菱や東レ子会社から浮かび上がってくる問題点も、基本的にはこんなところと見て間違いなかろう。

◆大局観からの洞察を

 さて、日本のモノ作りをどう立て直すのか。読売は「日本のモノ作りは高いモラルの『現場力』を強みとしてきた。産業界全体で企業統治のあり方を点検し直すことが重要だ」と主張。日経は「経営陣・幹部と現場が一体となり、問題や改善点があれば迅速に対応する機動的な組織にする必要」を訴え「それが経営トップの責務だ」と迫ったのである。

 「高いモラルの現場力」と「現場と経営陣が一体となった機動的な組織の構築」。両紙の主張は最もではあるが、まだ足りないことがある。一連の企業不正は今年だけのことではない。

 一昨年は東芝の不正会計事件、横浜の傾斜マンションから発覚した旭化成子会社によく施工不良とデータ改竄、東洋ゴムのデータ改竄などの企業不正の延長線上に起きたとみていい。いずれも日本の一流とされる企業である。そこからは経営者と現場、職人らの人的資源の著しい劣化が見えてくるはずである。その大局観からの洞察をどこも論じていないことがやや物足りないのである。

(堀本和博)