TPP交渉、12カ国署名を無駄にするな


 環太平洋連携協定(TPP)の発効に向け、離脱した米国を除く11カ国はあすからカナダ・トロントで首席交渉官会合を開く。今月下旬にはベトナムで閣僚会合が開催される。

 日本は既に合意した関税や投資ルールの枠組みを維持したまま11カ国での発効を目指す。11カ国で結束して今後の方向性を打ち出すべく日本が主導的に議論を進める必要がある。

 安保面でも大きな役割

 TPPは、交渉開始から5年が経過した2015年10月に大筋合意に至り、16年2月に12カ国による署名が終了している。その発効のために、国会・議会の承認等各国の国内手続きに焦点が移っていた。

 ところが、トランプ米大統領は大統領選期間中から、一貫してTPPに強い反対の姿勢を示し、2国間貿易協定の交渉を行って雇用と産業を米国に取り戻すと述べてきた。

 トランプ氏は今年1月、TPPからの離脱を決定。4月に行われた初の日米経済対話で、ペンス米副大統領は「将来のある時点で日本との自由貿易協定(FTA)を目指す可能性がある」と述べた。

 安倍晋三首相はTPPについて「自由、民主主義、基本的人権、法の支配という基本的価値を共有する国々が経済の絆を深め、さらに輪を広げていくことは地域の安定に資するものであり、安全保障上の観点からも極めて重要だ」と強調した。確かに、域内の緊密な経済関係によりアジア太平洋地域の安定を促進することが、安全保障面でも大きな役割を果たし得る。

 域内では人・モノ・カネが行き交うだけでなく、高次元の行政ルールの統一も行われることから、安全保障上の問題も経済的側面を重視し、より平和的なアプローチを取るよう加盟国の連帯が進むことになる。貿易に不可欠なシーレーン(海上交通路)の安定を確保することも各国共通の利益となり、海洋進出で覇権拡大を目指す中国にブレーキをかけることもできる。

 米国を含むTPP参加12カ国の国内総生産(GDP)合計は世界全体の40%を占める。この割合は、欧州連合(EU)の26%、東南アジア諸国連合(ASEAN)+3(日本、中国、韓国)の23%と比べても、極めて大きい。

 米国のTPP離脱は、中国が主導権を狙う東アジア地域包括的経済連携(RCEP)への関心の高まりにもつながっている。日本が米抜きTPPを推進するのは、高い水準での貿易・投資自由化を目指すTPPを実現し、アジア太平洋地域で中国が通商ルール作りの中心となるのを避ける狙いもある。

 米抜きTPPの「新協定」発効には改めて議会承認が必要となる。日本はオーストラリアやニュージーランドと共に、関税引き下げなど中身の再交渉を避けるシナリオを描く。

 まずは11カ国で発効を

 日本がTPPの枠組み維持にこだわるのは、将来の米国の復帰に望みをつなぐためだ。

 12カ国による署名を無駄にしないためにも、まずは11カ国による発効を実現しなければならない。これを米国の復帰につなげる必要がある。