日露首脳会談、領土問題置き去りに要警戒
ロシアを訪問した安倍晋三首相はプーチン大統領と会談し、北方領土の共同経済活動のために4島への官民現地調査団を5月にも派遣することや、元島民による航空機を使っての国後、択捉両島への特別墓参を6月に実施することなどで合意した。
領土交渉進展に向けた環境整備の一環だが、領土問題をめぐるロシアの強硬姿勢は変わっていない。共同経済活動に関する協議は慎重に進めるべきだ。
4島に官民調査団を派遣
活動が軌道に乗れば、北方領土のロシア人島民と日本企業の関係者との交流が深まり、日本国民の領土返還への強い思いに対するロシア側の理解が深まる可能性もある。だがロシア側に経済協力の果実を食い逃げされるだけで終わる恐れもあり、要警戒だ。
共同経済活動は、双方の法的立場を害さない「特別な制度」に基づいて行う方針だ。だが、ロシアは自国の法律を適用する姿勢を崩していない。ロシア寄りの制度になれば、主権がロシアにあることを日本が追認したと解釈される恐れがある。今後の協議では、ロシアの出方を見極める必要がある。
両首脳の会談は、昨年12月に首相の地元である山口と東京で開いて以来。第1次安倍政権を含めると17回目となる。領土返還実現に首脳間の強い信頼関係が欠かせないのは確かだ。
だが、プーチン氏は「北方四島は第2次大戦の結果としてロシア領になった」との立場を崩していない。プーチン氏はアジア太平洋地域への関与強化を表明しており、ロシアにとって太平洋への出入り口となる北方領土周辺の重要度は増している。ロシア軍は昨年11月、国後島と択捉島に最新鋭の地対艦ミサイルを配備した。
今年3月下旬には反政府派指導者のナワリヌイ氏が閣僚の不正蓄財疑惑をめぐって呼び掛けた主要都市でのデモに数万人が参加した。政府への批判が強まる中、領土問題での譲歩は難しいだろう。
元島民の高齢化が進む中、安倍首相が領土返還を急ぎたい気持ちは理解できる。しかし成果を焦れば、ロシアの術中にはまるだけだ。
北方領土は日本固有の領土であり、ロシアが不法占拠していることは紛れもない事実だ。経済協力のみが進んで、領土問題が置き去りにされることがあってはならない。ロシアによる主権侵害を決して容認しない姿勢が求められる。
一方、核実験や弾道ミサイル発射を繰り返す北朝鮮をめぐる情勢について、安倍首相は「さらなる挑発行為を自制するよう北朝鮮に働き掛けていくことで一致した」と述べた。
対北圧力を弱めるな
だが、ロシアの北朝鮮に対する姿勢は甘さが目立つ。ロシアは北朝鮮との定期航路を来月開設する。北朝鮮による日本での工作活動にも利用され、現在は日本が対北制裁の一環として入港を禁じている貨客船「万景峰号」が使われる。
国連安保理による対北制裁の「抜け穴」にもなりかねない。安保理常任理事国のロシアが、北朝鮮に対する圧力を弱めることがあってはなるまい。