化学・生物兵器、北特殊部隊の使用を警戒せよ


 政府は民進党の逢坂誠二衆院議員の質問主意書に対し、化学弾頭搭載の弾道ミサイルを迎撃した際、「ミサイル破壊時の熱などにより無力化される可能性が高い」との答弁書を出した。

 答弁内容は概(おおむ)ね妥当である。だが、これはわれわれが北朝鮮の瀬戸際政策で直面している状況では、ほとんどあり得ない事態である。政府は化学・生物兵器被害に関し、可能性の大きいケースについて国民に注意を喚起する必要がある。

 小型潜水艇で侵入の恐れ

 化学・生物兵器は「貧者の核兵器」と言われている。一定の技術があれば安価に製造でき、大量生産が可能で保管も比較的容易とされている。

 北朝鮮は1960年代初めごろから開発、生産に着手したとされる。特に化学兵器は2500~5000¥外字(93d3)に上り、世界第3位の保有量を誇っている。2月にマレーシアで起きた金正男氏殺害事件では、猛毒の神経剤VXが使われた。

 もっとも、日本向けにこうした兵器を使用する際には、弾道ミサイルを用いる可能性は小さい。第一に、弾道ミサイルは極めて高価である。第二に、大気圏に再突入する際に弾頭に発生する高熱を遮断する特殊金属の開発に成功していない。従って、この高熱で毒ガスが分解したり、病原菌が死滅したりするからである。

 このため、もっと安価で確実な方法を用いるだろう。北朝鮮は世界最大の特殊作戦部隊を保有している。また、小型潜水艇の保有数も世界最大級であり、さらに40~50ノットの超高速舟艇も数多く持っている。

 これまでも日本に侵入する際に活用してきた手段である。特殊部隊要員が、日本でサリンなど毒ガスを街中に放出したり、炭疽菌など細菌を水源地にばら撒(ま)くことは容易である。

 北朝鮮は毒ガスについて、成分を二分し、放出する際に隔壁を破壊して毒性を発揮させる「バイナリー」技術を保有している。この方法であれば、北朝鮮が毒ガスを使用した証拠は残らない。仮にばれたとしても、北朝鮮は化学兵器禁止条約を批准していないため、国際法違反とはならない。

 北朝鮮の核弾道ミサイルはこれから受ける脅威であるが、化学・生物兵器は既に直面している脅威である。世界の主要国は冷戦下で、政治、経済の中枢や軍事施設に核シェルターを設置していた。

 ところがわが国は、こうした兵器の対日使用について防護準備を全くしてこなかった。口を開けば「唯一の被爆国」が強調されてきたが、核シェルター設置には無関心で今日に至っているのである。

 被害局限の防護措置を

 永世中立国スイスは核武装は検討の結果断念したが、代わりに核戦争による放射能被害等を防ぐためのマニュアルを国民に配布している。

 わが国では「唯一の被爆国」論が、逆に核に対する防衛意識の低さを生む原因になっている。学校で核、化学、生物兵器についての教育をするとともに、こうした兵器使用による被害を局限するための防護措置を行う必要がある。