ヤマト運輸取扱量抑制に「物流の革新で」と経済紙の真骨頂示す日経
◆発展に前向きな論評
宅配便最大手のヤマト運輸が、取扱量の抑制を含むサービスの抜本的な見直しに着手する。ネット通販の普及で取扱個数が急増する中、ドライバーの人手不足が深刻化し、長時間労働が常態化している。同社のサービス見直しは、「労働環境が厳しく、サービスの品質を保てない」との同社労働組合からの要望を受けてのものである。
新聞ではまず4紙が社説で論評を掲載した。見出しを挙げると、日経1日付「物流の革新で宅配の人手不足に対応を」、毎日3日付「過剰な便利さの再考を」、産経5日付「過剰サービスは見直しも」、本紙「求められる利用者の協力」である。
4紙の中で、特に際立ったのが日経である。経済紙だから他の3紙と受け止め方が違うのか。問題の対処策を「物流の革新」でキレイに片付けていて、それは見事という他はない。見事過ぎて事態の深刻さが伝わって来ないのだが、日経に言わせれば、事態はそれほど深刻ではないということなのか。
他紙が「長時間労働が日常的」(毎日)、「長時間労働が常態化」(産経、本紙)と記す中、日経は「現場の疲弊」の一言で、長時間労働という言葉は出てこない。
日経社説は、IT(情報技術)やロボットの活用、料金体系の見直しなどを通じ、サービスの向上と労働環境の改善の両立に挑戦してほしい、が趣旨。経済紙らしい、業界発展に前向きな論評である。
◆「過剰」の見直し主張
宅配数はこのところ急増中で、2015年度で37億個を超え、「この10年間で約8億個も増えている」(毎日)。昨年は「前年より6%あまり増えて約38億7千万個」(産経)と言う。その中で特に問題なのが、全体の約2割に達する不在時の再配達である。
この問題に日経は「発注時に受取日時を指定し、配達回数に応じて料金を変えるようにすれば、無駄足は減るだろう。運送会社と大手通販会社が協力すれば可能だ」「急ぎでない荷物は定期的にまとめて配達する方法もある。利用法の変化に応じたサービスメニューの工夫が求められる」との解答を示す。実に淡々としたものである。
これに対し他紙は、先述した見出しの通り、主観の入った「過剰な」便利さ、サービスの見直しを求める。
毎日は、長時間労働が常態化する背景に、「送料無料」「即日配達」など利用者による利便性の追求と、それに応じて顧客を囲い込もうとする競争があると指摘。「だが、だれかに過重な負担と強いて提供されるサービスは長続きできない」として、業界や通販会社が持続可能な宅配の在り方に取り組むだけでなく、便利さの恩恵を受ける利用者の意識の転換も必要だろう、というわけである。
産経も、「利便性を高める配達サービスであっても、過剰なものは思い切って見直す必要がある」とし、「一部サービスの廃止もやむを得まい」「度重なる再配達には、一定の手数料の徴収なども検討に値する」と強調する。
◆宅配業者にしわ寄せ
こうした主張には、産経が示すように、ネット通販大手など大口顧客への配達料金の割引で、宅配業者側にしわ寄せが及ぶ実態がある。ヤマト運輸を傘下に持つヤマトホールディングスは17年3月期、国内取扱量が前期比8・0%増の18億7000万個に上るが、営業利益は15・4%減の580億円とリーマン・ショック以来の低水準に落ち込む見込み。決算見通しを記したのは本紙だけだが、荷物が増えるほど収益が圧迫される状況に陥っているのである。
7日に当のヤマト運輸が宅配便の基本運賃を、27年ぶりに個人向けを含め全面的な値上げを検討していることが明らかになったが、これを受け、これまで論評のなかった読売、朝日、東京の3紙が8日付で社説を掲載した。
読売は前述の毎日、産経とほぼ同意。朝日はこの間にヤマト運輸で明らかになったサービス残業の常態化を、東京はドライバー不足とその背景にある低賃金の問題を中心に論評をまとめた。
ヤマト運輸は新たな中期経営計画を公表する今秋までに値上げの詳細を固める見通しだが、日経が示す展開になりそうである。冷たい感じがしないでもないが、経済紙の面目躍如といったところか。
(床井明男)