訪日2400万人超を論じる中で異彩放つ日経「旅館を成長産業に」
◆観光立国への通過点
昨年の訪日外国人旅行者数が2000万人寸前だった前年より22%増え、2403万人となった。政府が「ビジット・ジャパン・キャンペーン」をスタートした15年前は500万人強。1036万人と初めて1000万人の大台を超えた2013年から、わずか3年で倍増超の急増である。
当初、政府が掲げていた年間の訪日外国人数の目標は2020年までに2000万人超だった。これを4年も早くプラス400万人して達成したわけだが、すでに事実上は一昨年、ほぼ目標に届いていた。このため、昨年3月に東京五輪開催の年とも重なる20年までの目標を一挙に4000万人にまで引き上げ、観光立国、観光大国を目指している。今や訪日外国人2000万人超えは、その通過点だとも言えよう。
小紙は今年の元旦付第2部特集「観光大国日本への跳躍」で、観光大国・日本の潜在力について、米国のブランドコンサルティング会社の「観光ブランド」ランキングを基に次のように論じている。
「(それによると)日本はイタリアに次いで2位で世界トップクラスである。それもそのはずで、観光に訪れる国・地域を選択する場合、『気候』『自然』『文化』『食事』の4つの要素が重要だが、日本はこれらの条件をほぼ満たす世界でも数少ない国だからだ。裏を返せば、日本は『観光大国』としての潜在力を備えていながら、これまで外国人に『行きたい』と思わせる努力を十分行ってこなかったのだ」
◆地方の発信力が課題
さて、訪日外国人数2000万人超えについて昨18日までに、社論(社説・主張)を掲げたのは読売(18日付)、日経(16日)、産経(同)、小紙(15日)である。
「4000万人達成のためには、地方への誘客とリピーターを増やすことが鍵」(小紙)、「全国各地の魅力を世界に発信し、訪日観光の裾野を広げる方策が次ぎなる課題だろう」(読売)、「全国各地域の魅力を外国人に分かりやすく伝えることが必要だ」(産経)と言うように、まず地方の魅力とその発信力の向上を図ることが課題である。
外国人旅行者は東京―京都―大阪をめぐる「ゴールデンルート」に集中している。このため、観光スポットは「恒常的に混み合い、ホテルは商用の予約さえままならない」(読売)、「一部では税関や検疫の要員が不足し航空便の遅延も頻発」(産経)するなどの副作用も目立つ。「これを地方に分散させる工夫をもっと凝らさねばなるまい」(産経)と指摘するのは、その通りである。読売はさらに具体的に「空港の使い勝手をよくすることも欠かせない。団体客の多い格安航空会社の乗り入れや、長時間待たせない入国審査などに取り組む」ことを主張する。
もう一つ注目すべきは、地方には「独特の地方色を持つ。温泉や料理などゴールデンルートにはない観光資源も備えている」(小紙)ことだ。読売はさらに論を進めて、そうした地方の魅力を東京や京都などに対抗できるように向上させるために、束になったコンテンツづくりを提言する。「祭りや行事など地方色豊かなイベント体験は人気が高い。さらに自然や建造物、食などをどう組み合わせてアピールするか。市町村など自治体の枠にとらわれない広域連携が一つのカギ」だと言うのも最もである。
◆規制緩和に期待示す
一方で、訪日客2400万人超のトピックには全く触れないまま、これに密接に関連して「規制緩和で旅館を成長産業に」しようと論じた日経社説は、テーマを特化して絞り、具体的に踏み込んだ主張をした。
厚生労働省が時代に合わなくなった項目も出てきた旅館業法(1948年制定)を改正し、旅館などの規制緩和に動き出したことに期待を示した、経済の日経ならではの主張は異彩を放ち、かつ印象深い。
「訪日外国人の増加もあって客の要望は多様化している。過剰な規制は事業者の創意工夫の芽を摘む」「ホテルと旅館の区分け、客室数や帳場の設置義務などは大幅に緩和していいのではないか。客数を限った高級な宿や若者向けの廉価な宿など、多様な施設の登場に道を開くことになる」と論じたうえで「民間の創意工夫を官が妨げる規制は、できる限り少なくすべきだ」と強調したのである。
(堀本和博)