オバマ政権からリベラル政策失敗の教訓導き出した「プライムニュース」
◆偏向した米世論調査
トランプ新米大統領が就任した。テレビの時事番組のテーマは過去1週間、トランプ氏一色だった。そのプレゼンスに陰りが見えるとはいえ、米国は世界のリーダー国。しかも、ホワイトハウスの主が民主党から共和党に変わったのに加え、型破りの大統領の登場とあっては過去の政権交代以上に報道に熱が入るのは当然だろう。
そんな中で、印象的だったのはBSフジの「LIVEプライムニュース」。「トランプ大統領就任へ あと6時間」をテーマにした20日放送では冒頭、米CNNテレビの世論調査が話題となった。同氏の大統領就任直前の支持率は40%(不支持率52%)と、異例の低さだったからだ。
歴代の大統領の場合、支持率が不支持率より下回ることはなく、番組は「史上最低の〝船出〟」と解説した。一方、ホワイトハウスを去ったオバマ前大統領の場合は、就任直前の支持率が84%という高さだった(不支持率14%)。
この調査に異を唱えたのはゲストコメンテーターの古森義久・産経新聞ワシントン駐在客員特派員。CNNの調査対象は、共和党より民主党支持者が多かった事実を示して、世論調査に偏りがあると指摘した。
米国メディアの世論調査の偏向は、ほとんどがヒラリー・クリントン氏(民主党)の優勢を伝えた、先の大統領選挙調査ですでに世界に知られている。したがって、古森氏の指摘は一理あり、今回の世論調査も割り引いて考える必要があろう。
◆8年で国際情勢悪化
また、就任時に高い支持率を誇った大統領が評価し得る実績を残すというわけでもない。皮肉なことに、その代表例はオバマ氏だ。古森氏は次のように語った。
「オバマ政権の8年間の結果、今の国際情勢は非常に危険になってしまった」。そして「国際情勢がこれから厳しくなる中、リベラルな対応では(世界が)もたないという(米国民の)意識がトランプ政権の登場につながった」
つまり、今後のトランプ政権の安全保障政策は、リベラルなオバマ政権の失敗を教訓に遂行されると予測できるのである。
「米国第一主義」を掲げるトランプ新政権が、軍事力よりも国際協調主義で問題を解決しようとし過ぎた前政権とは対照的に、超現実主義になることをさらに浮き彫りにしたのは19日放送の同番組。テーマは「検証・オバマの8年間 『チェンジ』の功と罪」。
オバマ氏の理想主義は「核兵器のない世界」の実現を訴えたプラハでの演説(2009年4月)や、昨年の被爆地広島訪問に表れている。その一方で、リベラル外交は中国の南シナ海の環礁埋め立て、過激派テロ組織「イスラム国」(IS)の台頭、北朝鮮の核・ミサイル開発などにつながった。
番組に出演した長島昭久・元防衛副大臣(民進党衆議院議員)がオバマ氏のリベラル外交の「極めつき」として挙げたのは「米国は世界の警察官ではない」という発言と、ライス国家安全保障問題担当補佐官の存在。ライス氏に至っては、最近も南シナ海での米軍の「航行の自由作戦」に異を唱えた上で、「地域の未来は南シナ海の艦艇ではなく、北京で学んでいる留学生によって描かれるのだ」という論文を書いていることを披露。「そういう人物が発言権を持っていたことがオバマ政権のリベラルスタンスの象徴」と名指しして批判した。
◆超現実主義の新政権
「世界の警察官ではない」発言について、森本敏・元防衛相は「今日の世界の混迷はこの一言が作ったように思う」「力は使うか使わないか分からないという状態にして初めて抑止力になる。伝家の宝刀を抜かないと言ったら終わり。強いリーダーシップを発揮できる米国に戻ってほしい」と、新政権に注文を付けた。
トランプ氏の外交アドバイザーと話したという長島氏は、同政権が目指すのはレーガン政権流の「力による平和」だという。しかし、異なるのは理念のない「ガチガチの現実主義」。つまり「米国第一主義」を掲げて、その実現のためには既存の原則にとらわれないのがトランプ流ということか。
最後に中谷元・前防衛相(自民党衆議院議員)が述べた。「自由主義と民主主義を守る、世界の秩序を安定させる、そのために日本もやるべきことはやっていく」。そうでなければ、超現実主義者に「世界の警察官」であり続けることを納得させることは難しいと、視聴者を覚醒させる番組だった。
(森田清策)