トランプ氏TPP離脱宣言、米国と地域のためになるのか


 トランプ次期米大統領が大統領選後初めて、環太平洋連携協定(TPP)から離脱する意向を表明した。

中国を牽制する狙いも

 TPPは、日米など12カ国が2月に署名した広域の自由貿易協定(FTA)。農産品・工業品の関税削減・撤廃を通じた市場開放と、知的財産権や政府調達など幅広い貿易・投資の共通ルールを通じ、域内の経済活動を促進する枠組みだ。

 参加国のうち国内総生産(GDP)の合計が85%以上を占める6カ国以上が国内手続きを終えて初めて発効する。このため、GDPの6割を占める米国の批准が不可欠だ。

 安倍晋三首相やオバマ米大統領らはペルーの首都リマでTPP首脳会合を開き、協定発効への決意を確認した。だがトランプ氏は、広域を重視する従来戦略を転換し、自国の利益を要求しやすい2国間の自由貿易協定を優先する構えだ。

 トランプ氏は「米国第一」を掲げる。しかし、これから高い成長が期待できる東南アジアや中南米の国々を巻き込んで巨大な貿易圏をつくることは、米国の発展にもつながるはずだ。TPP離脱が本当に米国のためになるのだろうか。

 一方、アジア太平洋経済協力会議(APEC)は採択した首脳宣言で、参加21カ国・地域からなるアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)実現を改めて掲げた。その土台として最重視されてきたのはTPPだが、TPPが頓挫すれば、中国主導で米国不参加の域内包括的経済連携(RCEP)に軸足が移ることは確実だ。

 中国は、日米主導で高い基準のルールが作られたTPPがFTAAPの土台になることを懸念していた。知的財産権の保護規定などTPPの参入条件を満たすことは難しいためだ。

 国際貿易のルール策定で主導権を握れば、中国はシルクロード経済圏(一帯一路)の推進や、アジアインフラ投資銀行(AIIB)を活用した経済秩序構築を加速させる可能性もある。シルクロード経済圏で進めている港湾整備事業などは、軍事利用を見据えたものとされる。

 その意味で、TPPには中国を牽制(けんせい)する戦略的な狙いもあった。重要な枠組みであり、トランプ氏には離脱宣言の撤回を求めたい。

 米国が経済だけでなく、外交・安全保障面でも「内向き」志向に傾けば、アジア太平洋地域に「力の空白」が生まれ、中国の無法な海洋進出が一段と強まりかねない。そうなれば地域が不安定化し、ひいては米国の国益も損なうはずだ。

 TPP参加国の中には、米国抜きで発効させるべきだとの意見が浮上している。しかし中国に対抗するとの狙いを踏まえれば、安倍首相の言うように米国抜きでは意味がない。

首相はトランプ氏説得を

 首相は国会での答弁で「今国会でしっかりと批准し、TPPの意義を米国に粘り強く訴え続けていくとの意思を示す」と述べ、米側に翻意を促す意味でも今国会での承認は不可欠だと訴えた。首相は早期の承認を目指すとともに、TPP発効に向けトランプ氏を説得すべきだ。