世界的な人口構成の変遷と世界経済予測を特集するエコノミスト
◆続く就活売り手市場
わが国において人口減少が大きな問題となっている。ある民間調査機関は、近い将来、かなりの数の自治体が消滅するという衝撃的な報告を行ったのは記憶に新しい。人口減少の影響は、労働市場にも影響を与えている。近年、わが国の大学生の就職戦線はかつての「氷河期」がうそのように「売り手市場」が続く。失業率は3・0%前後(2016年8月は3・1%)で推移し、有効求人倍率も1・37(同年7月)と1をはるかに超え、安倍政権はアベノミクスの成果と誇っている。もっとも、ここ数年の労働需給の¥ルビ(¥ルビサイズ(4.5P)逼迫,ひっぱく,,,0.10mm,0,しない)は、少子高齢化社会の到来で若手労働者の不足が予想されることから企業側も採用に積極的になっているとの見方が多く、今後も一定の売り手市場は継続していくとみられている。
ところで、週刊エコノミストが10月4日号で、「人口で見る世界経済」をテーマに人口増減あるいは人口構成の変遷が経済に与える影響を特集した。わが国において人口減少が顕著になってきている昨今、今後の社会・経済動向をしっかりと捉えてほしいというのが、今回の特集の狙いなのだろう。
◆人口も食糧も7倍に
人口問題は経済学にとって長い間、議論されてきた内容である。人口問題を経済学に取り上げたのは、同号にも掲載されているが、18世紀後半に『人口論』(1798年)を著した英国の経済学者トマス・R・マルサスで、彼は世界の人口の増加に警鐘を鳴らした。マルサスは「人口は幾何級数的に増加するが、食糧生産は算術級数的にしか増加しない」とし、いずれ食糧不足によって深刻な貧困問題が生じるとしたのである。
こうした議論は今でもちまたでなされている。例えば、世界の人口は今後増え続け、人類に供給する食糧が追い付かず、いずれ世界的な食糧不足が到来するという類いのもの。現在、日本は食料自給率がカロリーベースで40%前後にとどまっているが、世界的な人口増によって食糧不足が生じれば、日本に食糧が入ってこない事態もあり得る。従って、今からでも日本の食料自給率を上げるべきだといった主張も多い。
ちなみに、200年前のマルサスの“予言”はその通りになったのであろうか。当時の世界の人口は10億人(国連「世界人口白書」)だったと言われる。2015年現在では73億5000万人とされる。人口はこの200年で7倍以上に増えたが、食糧もまた同じように増えているのである。それが可能になったのは農薬の発明や技術革新によって大幅に生産量が増えていったというわけである。
エコノミストは、ヨーロッパ、アジア、アフリカ諸国16カ国の人口の長期予測を表に取り上げながら、各国の人口構成の変遷を見詰め、それぞれの国を取り巻く経済問題を分析している。国あるいは地域の人口構成の変遷はおおむね、衛生状態が悪く乳幼児死亡率の高い「多産多死」から、生活水準が向上し「多産少死」、さらに出生率が低い「少産少死」へと移っていく。「多産多死」のアフリカ、「多産少死」から「少産少死」へと移行するアジア。中でも少子高齢化が進む日本。とりわけ、アフリカ中心に発展途上国では「過剰な若者層」が紛争やテロの下地になっていると同号は分析する。
◆世界新秩序の構築を
ところで、少子高齢社会にある日本の先行きは実際には明るいのか、あるいは暗いのか。これについてエコノミストは同号で2人の学者を登場させて持論を展開させている。1人は小峰隆夫・法政大学大学院教授。生産労働人口が減少し、彼らの負担が大きくなる日本社会の未来は暗い。その問題をクリアするためには社会保障制度の合理化が不可欠と力説する。他方、吉川洋・立正大学教授は、人口減だからといって悲観する必要はないと説く。むしろ、イノベーション(技術革新)によって超高齢社会を乗り切るチャンスがあると主張する。確かに、少子高齢化による人口減少は絶対的なマイナス材料ではなく、われわれを取り巻く環境への捉え方を変えることで、生活を向上させ、精神的な満足度を高めるチャンスが到来したとも言える。
もっとも、今回の特集で目を引いたのは、鬼頭宏・静岡県立大学学長の論文だ。同学長は「皮肉にも近代経済成長を支えた化石燃料に依存する文明システムは、今や人類の持続可能性を脅かすようになり、成長の限界を迎えた」と指摘し、「20世紀後半は世界の全地域が人口を増加させ、程度の差こそあれ、経済成長を実現した時代であった。…。(しかし、21世紀は)産業文明とは異なる新しい文明への転換を模索する時代なのだ」と語る。先進国の人口減少はすなわち、経済至上主義から脱皮した新しい世界秩序(パラダイム)の構築に力を注ぐ時が来ていることを意味していると言えよう。
(湯朝 肇)