日銀の追加緩和策に「疑問」「手詰まり」と批判の中、理解示した日経

◆総じて批判的な各紙

 日銀が先月下旬の金融政策決定会合で、追加の金融緩和策を決定した。マイナス金利の導入を決めた1月以来半年ぶりの追加緩和である。株価連動型の上場投資信託(ETF)の買い入れ額を、現在の年3・3兆円から6兆円にほぼ倍増するというのが柱で、企業や金融機関の外貨調達支援も強化するという。

 この追加緩和策について各紙社説の論評は、総じて批判的で厳しいものが多かった。朝日(7月30日付、以下同じ)の見出し「日銀は政権のしもべか」に始まり、毎日「いよいよ手詰まりだ」、東京「通貨の番人はどこへ」、保守系でも読売「政府との協調は効果を生むか」、産経「逐次投入で効果あるのか」という具合。唯一、理解を示したのは日経で、見出しは「追加緩和を政府も改革で支えよ」である。

 各紙が総じて批判的なのには理由がある。各紙とも今回の追加緩和策が、政府が実施する大型の経済対策に歩調を合わせたものとの認識で一致しているが、そもそも政府の経済対策の必要性を認めない朝日などにとって、今回の日銀の追加緩和策は目に余る対応と映り、前述した見出しの通りで、「(経済対策を打ち出す)政府の発想そのものがおかしい。日銀はそれに物申すべきだが、追加緩和でむしろ側面支援してしまった。政権の意を受けて追従したと見られても仕方あるまい」というわけである。

◆緩和策の検証を提言

 毎日の「そもそも追加緩和が必要なのか」との見方は、需要不足の日本経済の現状で、金融もすでに十分に緩み、言わば“流動性の罠”状態にある中では尤もである。同紙が指摘するように、「むしろ異次元緩和のゆがみが目立」ってきているのも確かで、「異次元緩和の軌道修正こそ急ぐべきだ」との主張は、正論ではある。

 しかし、異次元緩和の軌道修正を急げば、現状、どうなるか。成長率がプラスとマイナスを行ったり来たりするような低迷状態の中で、政府が景気を下支えし上向かせようとする矢先である。株式市場も日銀の追加緩和を催促する中で、ゼロ回答どころか、マイナスの回答を示せば、せっかくの上昇機運に水を差すことになりかねない。正しい政策を進めたいからこそ、現状に即した慎重な政策運営が望まれるわけである。

 唯一、理解を示した日経は、追加緩和策について「企業と家計の心理悪化に備えた予防措置」と捉え、ETFの買い入れ増は「市場安定に一定の効果があろう」と指摘。また、マイナス金利の拡大を強行すれば、金融機関の収益悪化の懸念で株価下落を招きかねないとして、「緩和策は現実的な判断」と評価した。

 ただ、そういう日経も「大規模な金融緩和は限界がみえてきた」とも述べる。同紙は、マイナス金利の拡大は預金利子や年金運用の利回り低下で人々の生活を圧迫する、また新発国債をほぼ全額買い入れている量的緩和政策も増額の余地は乏しいとして、「政策の効果と副作用を踏まえ、緩和策をどこまで進められるのか、丹念に検証すべきだ」と提言する。妥当な指摘である。

 この点は、日銀を厳しく批判した朝日も「ただ、金融機関の経営をますます圧迫しかねないマイナス金利政策の強化や、政府への財政ファイナンスと受け取られかねない国債買い入れの増額に手をつけなかった点は評価したい」とした。

◆質への配慮が不可欠

 さて、現実的な評価を示す日経が「いま問われるのは」と強調するのは、0%すれすれに低迷する日本の潜在成長力を着実に引き上げる具体策で、「中長期で経済を強くする構造改革と、それを後押しする財政措置の組み合わせが望ましい」という。

 読売も同様で、「脱デフレは、日銀の金融政策だけでは実現できない。金融緩和と財政政策で景気を下支えしている間に、政府は、経済対策の成長戦略を一段と強化することが肝要である」と強調した。同感である。要するに、肝心なのは政府の経済対策ということになるのだが、日経は政府の経済対策は「玉石混交の感がある」として、安倍晋三首相が参院選後に表明した「未来への投資」を真の意味で実現する内容にすべきだと注文を付けた。

 日経が指摘するように、金融政策にせよ財政政策にせよ、いたずらに量を追うよりも、政策の質に配慮した運営が欠かせない、ようである。

(床井明男)