教師の選挙違反告発サイトに「戦前の思想統制」とレッテル貼る毎日

◆違法活動把握は妥当

 毎日の夕刊に「特集ワイド」と題する紙面がある。表紙をめくった2面にほぼ1ページを割き、しばしば突拍子もない記事を載せる。参院選前には「この国はどこに行こうとしているのか」とのタイトルで反安倍、反改憲の人士を次々と登場させ、野党に肩入れした。

 だから、ちょっとのことでは驚かないのだが、それでも7月28日付には驚かされた。「自民党『偏向教師密告』サイトの波紋 『まるで戦前の思想統制』」とあったからだ。戦前の思想統制とは穏やかな話ではない。

 リード文では「心配である。参院選で大勝し、かつてない巨大権力を手に入れた自民党が、だ」と書き出し、同党のホームページ(HP)上で「政治的中立を逸脱した学校の先生がいたら名前などを教えて」という趣旨の「調査」に乗り出し、「まるで戦前」と波紋を広げているとしている。

 「偏向教師密告」サイトと言うが、実際はどうか。先の参院選から18歳に選挙年齢が引き下げられ、高校生も投票できるようになったことを受け、自民党はHP上に政治的中立を逸脱した学校や教員名、授業内容などを送信してもらう仕組みをつくった。

 言ってみれば、選挙違反の内部告発サイトだ。参院選公示後の6月25日から選挙後の7月18日まで開設され、現在はない。これを「密告」とするのはいかがなものか。毎日も大企業の不祥事問題では内部告発に肯定的で密告とは言わなかったはずだ。

 記事の中で、党文部科学部長の木原稔衆院議員がサイト開設の理由を「18歳以上に選挙権年齢を引き下げたのは政治です。だから今回の参院選で学校に混乱がないか、把握する責任が政治にある」と述べている。

 それはそうだろう。教育基本法は学校での特定の政党支持や政治的活動を禁じている(14条)。初の18歳選挙権で教師に違法活動がないか、政治が把握する責任があると木原氏が考えるのは妥当だ。

◆中核派に手を貸す学者

 実際、違法活動や選挙違反は少なくない。安保法制では校内での政治活動が目立った。北海道教組は09年総選挙で校内の選挙活動を「道徳活動」と称していた。高校生が違法活動に関われば、改正公職選挙法で成人と同様、刑事裁判に掛けられる。

 だから自民党がサイトを設けて調査するのに目くじらを立てることもない。それを毎日はなぜ、「戦前の思想統制」になぞらえるのか。記事を読むと、「思想統制」と主張していたのは学者らだった。その主張を鵜呑(うの)みにして毎日は前記の見出しを立てていた。

 驚かされたというのは、その学者のことだ。小樽商科大学教授の荻野富士夫氏である。荻野氏とはいったい何者なのか。ネットのフリー百科事典「ウィキペディア」を見れば、その“正体”が知れる。

 歴史学者で、研究分野は「戦前・戦後日本の治安体制」。所属学会として「日本史研究会、歴史科学協議会、民衆史研究会、初期社会主義研究会」などとある。いずれも名だたる左翼団体だ。

 それだけではない。極左集団・中核派の機関誌『前進』(ネット版)を見ると、荻野氏は中核派の集会のメーン講師を務めていた(今年3月7日号)。集会は取り調べ可視化や通信傍受の対象を拡大する刑事司法改革関連法案(5月に成立)に反対するもので、荻野氏は同法によって「戦前に逆戻りする」といった趣旨の講演をしている。

 同法は通信傍受の範囲を殺人や放火、詐欺、窃盗など9類型の犯罪を追加しているから、殺人や内ゲバを繰り返す極左集団にとっては“脅威”に違いない。

 何のことはない荻野氏は極左集団に手を貸しているのだ。そんな人物の主張を真に受けて毎日は自民党のサイトに「まるで戦前の思想統制」とのレッテルを貼っていたことになる。

◆戦前に戻る心配なし

 毎日が護憲を掲げるなら憲法をしっかり読んでもらいたい。戦前と違って現行憲法の下では、強制処分法定主義(強制処分には法律の根拠が必要)、令状主義の原則の下、捜査段階での身柄拘束や捜査押収活動が厳しく規制されている。だから「戦前の思想統制」に戻る心配は微塵(みじん)もない。

 冷静に考えれば、すぐに分かる話だ。毎日はいつまで妄想に浸っているつもりか。

(増 記代司)