原発含めた電力安定供給を
大手電力会社の送配電部門を別会社化する「発送電分離」を2020年4月に行うことを明記した改正電気事業法と、都市ガスの小売りを17年をめどに全面自由化する改正ガス事業法が国会で成立した。1951年に始まった大手電力が発電・送配電を一貫して実施する現行体制は抜本的に変わる。抜かりない準備を進めたい。
広域機関の役割重要
電力小売りの新規参入会社は現在、顧客に電気を販売する際、対価を払って大手電力の送配電網を利用しているが、送配電部門を別会社に移せば、大手電力と平等な条件で使えるようになる。電力市場の競争促進につながり、利用料金の透明化などが期待される。
電力改革システムでは16年4月、家庭向けを含む電気小売りを全面自由化する。しかし、契約する電気事業者の倒産や、条件が折り合わず契約を結べない事態なども想定される。また、自由化に伴い電力・ガス市場に悪質な業者が紛れ込むことも懸念される。
これらのトラブルをなくすため、全国規模で電力需給の調整を行う「電力広域的運営推進機関」(広域機関)が今年4月に発足したが、その役割は重要だ。供給を最終保障するセーフティーネット(安全網)の仕組み作りが急がれる。
日本ではこれまで、全国10の地域ごとに一つの電力会社が発電から送電、販売までを独占的に担い、掛かった費用を電気料金に転嫁できる規制を敷いてきた。そのシステムの下、家庭や企業に停電の少ない高品質な電気が送られた。今回の抜本的改革でも、電力の安定供給体制の構築に万全を期さなければならない。
特に精密機器関連企業にとって、安定供給はなくてはならないものだ。従来、日本の電気の質は厳しい管理によって維持され、それが高度なデバイス技術を支え、ICチップなど品質の高い製品を生み出してきた。今後も電気の質や配電システムに劣化を来すようなことがあってはならない。
もう一つの懸念は、電力市場の競争が激化するあまり、電力会社が目先の利益にとらわれ、中長期の経営戦略を描けなくなってしまうことだ。
政府は原発を重要な電源の一つと定め、30年時点の電源比率で約2割とする方針であり、電力の安定供給のために今後も欠かせない。
だが原発は燃料コストが低い一方、建設から投資回収まで時間がかかる事業でもある。早期再稼働が見通しにくい中、消費者の利益を最重視した経営が求められる。
生活の質的向上期待
一方、ガス小売りの全面自由化でも、家庭は料金やサービスを比較し、ガス会社を選択できるようになる。これを受けて、電力、ガス、石油の各業界の大手企業は「総合エネルギー企業」への移行を掲げ、さまざまなエネルギー需要に対応することで顧客を囲い込むことも視野に入れている。
電気とガスのセット販売など、新しいサービスが生活の質的向上につながることを期待したい。
(6月27日付社説)