債権規定見直し、時代に合わせて消費を促せ
法相の諮問機関である法制審議会が、企業と個人の契約のルールなどを定める民法の債権規定を120年ぶりに抜本的に見直す要綱を答申した。安倍内閣は今通常国会中の改正を目指す。民法を時代に合わせ、安心で円滑な消費活動の促進に寄与することを期待したい。
法制審議会が要綱答申
商取引の在り方が時代とともに変わっているにも関わらず、明治時代の1896年に民法が制定されて以来ほとんど改正されていないことは尋常とは言えない。特に、当時はとても考えが及ばなかったインターネットが今日は普及してネット通販が一般的になった。
答申された要綱の改正項目は約200に及ぶが、ネット通販や保険などの契約で事業者が消費者に示す「約款」に関する規定を新たに設けることを柱としている。これまで約款の法的位置付けは曖昧で、すべての消費者が内容を理解しているとは言い難い現状がある。
経済産業省の調べによると、ネット市場は2013年に11兆円を超えた。市場の成長に伴い、商取引をめぐるトラブルの発生も多くなっている。
国民生活センターに寄せられたネット通販の全相談件数は同年で20万3240件、うち商取引に関するものは5万6242件。09年にそれぞれ13万1654件、1万8171件だったのが急増している。
また、保険も内外の保険会社がさまざまな付加価値のある商品を開発し、契約を持ちかけてくる。サービスの向上や利点が強調される傾向があるが、いざ契約者が利用する際に細かい字で埋まった約款の一文一文の解釈をめぐりトラブルになることがある。
要綱では事業者があらかじめ表示した約款は法的に有効と認めるが、消費者の利益を著しく害するような項目は無効とする方向。特にネット通販のトラブルでは、不当な価格請求に繋(つな)がる約款をよく読まずに契約のクリックをしてしまう例があり、消費者を保護するものとして評価できる。売り手と買い手の双方に、責任ある取引が求められよう。
また、賃貸住宅の敷金や原状回復に関する規定を新たに設け、敷金は原則として返金されるとし、住居の経年変化に関する修復費用は貸主が負担するとしている。
敷金は家賃の2~3カ月分が一般的だが、他の住居に移る際に原状回復を理由に返金されないケースが多かった。こうしたトラブルに関する国民生活センターへの相談件数は毎年1万件を上回っている。
人口減少社会を迎えて空き家が増え、今後は賃貸住宅に転用されることが多くなるとみられる。物件を借りやすくする措置が欠かせない。
認知症高齢者の契約無効
また、超高齢化社会を反映して、認知症の高齢者らが交わした契約を無効にすることも盛り込まれた。飲食代金のツケや診療報酬など金の借り貸しの時効期間は一律、原則5年に延ばしたことや、企業向け融資の保証手続きを厳しくすることなども必要な法整備をするものだと言えよう。
(2月26日付社説)