企業好決算に一段の経営改革と競争力の強化を説いた保守系の3紙
◆読売は新課題に警鐘
東京証券取引所一部上場企業の2014年3月期決算発表がピークを迎えた。安倍政権の経済政策「アベノミクス」による円安や景気回復、さらに消費増税前の駆け込み需要などにより、輸出企業を中心に総じて2ケタの大幅な増収増益の決算発表が相次ぐ。
これを受け、社説で論評を掲載したのは読売、日経、本紙の3紙。11日付読売は「成長持続へ経営改革緩めるな」、同日付日経「日本企業は高収益に安心せず競争力磨け」、13日付本紙「自律的成長へ積極投資を」が、それぞれの見出しである。
3紙のうち、日経は企業経営の面から論評をまとめている。日本企業は金融危機後、経費削減などにより経営の立て直しを急いできたが、最高益をうかがうまでになった現在は、「危機対応から完全に脱し、新たな成長への挑戦を始めるときだ」と強調。そのために取り組むべき課題として、製品競争力のさらなる強化やグローバル戦略の深化、経営の様々な面での効率化の追求などを求めた。経済紙らしい視点を披露している。
読売は、見出しの通り、経営面からの指摘もあるが、「幅広い業界で業績が急伸したのは心強い」とマクロ面からも評価。そして、「賃上げや雇用増につなげる好循環を実現し、日本経済を本格再生させることが大事だ」と述べ、個々の企業の経営努力が単に一企業のことでなく、日本経済全体の中での持つ意義を説く。同感である。
こうしたマクロ的な視点からみていることもあり、同紙は日経が指摘していない消費増税による販売減の影響や円安効果の一服感、中国など新興国経済の減速を、直面する「新たな課題」として警戒すべきだと強調する。
◆朝日では電力不安に
日経、読売は産業全般的な論評だったが、さらなる課題として「エネルギーコストの高まり」を挙げ、電力業界をも取り上げたのが本紙。
最高益を更新する企業が相次ぐ中で、電力各社は厳しい状態が続く。原発を代替する火力発電用の液化天然ガス(LNG)などの燃料費負担が重荷となり、中部、中国など6社の経常赤字総額は4400億円に上る。原発依存度が高い九州、関西、北海道などは3期連続の赤字である。合理化努力も余地が少なくなっており、原発再稼働が見通せない現状では、電気料金の再引き上げは必至であるからだ。
決算発表について論評を掲載したのは、いずれも保守系紙ばかり。保守政権の「アベノミクス」による政策効果が面白くないのか、リベラルの朝日や毎日、東京はまだない。ただ、東京は同じ系列の中日の地元であるトヨタ自動車1社についての論評を9日付で掲載した。
電力業界だけに絞った社説を掲げたのは、朝日(4日付)と産経(11日付)である。
朝日は、逆境を「変革元年」に、との見出しで、厳しい状況の中、原発に頼らない経営への変革を訴える。一方の産経は「安定供給へ基盤強化急げ」(見出し)と強調し、そのための取り組みを政府に対し強く要望している。
朝日が指摘する「変革」の中身は、経費をすべて電気料金から回収できる総括原価方式や地域独占の撤廃などの電力改革を見極めた戦略を立てることや他社との提携など。朝日は「それらは他の産業が自由化やグローバル化の中で失敗や淘汰(とうた)を繰り返しながら経験してきた道である」と説くのである。
尤(もっと)もな指摘だが、現実に3期連続の赤字を余儀なくされている中で、それだけで経営が立て直せるのか。また、産経にある「電力の安定供給」の視点が、同紙には欠落している。
◆欠かせぬ原発再稼働
赤字が続く電力各社は料金の再引き上げを模索している。そうなれば「日本経済にも深刻な打撃を与えかねない」(産経)のであり、同紙が「より心配なのは、安定供給に支障が出る事態だ」とするのも、当然である。
当面の対策としては、産経や本紙が指摘するように、「安全を確認した原発の再稼働が欠かせない」わけである。
しかし、その再稼働も原子力規制委員会の安全審査が遅れて、先が見通せない。地元自治体の理解を得る必要もある。電力業界の経営は、朝日が言う「一企業の事業変革」だけで済む問題ではないのである。
(床井明男)





