通商白書 経済安保強化へ有志国連携を


 梶山弘志経済産業相は2021年版の通商白書を閣議に報告した。通商政策が前提とすべき国際潮流として、経済面における政府の役割の拡大、環境や人権などの共通価値への関心の高まり、各国における経済安全保障の強化、ビジネスのデジタル化などを提示している。

供給網構築の重要性強調

 白書は、新型コロナウイルスの感染拡大から世界経済が回復する過程で、自国優先的な措置や不公平な競争条件などの課題が生じているため、自由貿易体制を強化する必要性について強調している。

 この中で、新型コロナワクチンの輸出制限や国内産業保護のための関税引き上げといった保護主義的な動きが常態化する恐れがあると懸念を表明。こうした事態を避けるには、世界貿易機関(WTO)や経済協力開発機構(OECD)などでのルール作りが求められる。自由貿易体制を担う日本としては、新たな国際ルールや規範の作成を主導しなければならない。

 また米国と中国の技術覇権争いなどを背景に、各国が経済安全保障の取り組みを強めていると指摘。こうした動きを「地殻変動とも言える大きなうねり」と表現した。

 各国では、半導体など重要物資の確保や軍事転用も可能な先端技術の管理といった動きが広がっている。米国政府は中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)や関連会社に対する輸出の規制を強化。中国も昨年12月に輸出管理法を施行し、安全保障に関わる製品などの輸出規制を強めている。重要な技術は流出防止策を講じ、管理を徹底することが不可欠だ。

 政府が6月に閣議決定した経済財政運営の基本指針「骨太の方針」には「経済安全保障の確保」が初めて明記された。白書は、日本も重要な物資の技術開発や国内の生産基盤の整備を強化すべきだと提言。コロナ禍などで製造業のサプライチェーン(供給網)のもろさが露呈したため、物資の調達先の分散や、欧米など有志国との信頼に基づく連携でサプライチェーンをつくり上げることが重要だとした。

 デジタル庁が9月1日に設置される。今後の方向性としては、デジタル技術の活用による強靭(きょうじん)なサプライチェーンの構築も急がれる。重要な技術の研究開発や設備投資を促して国内の生産基盤の整備を進め、先端技術の分野で確固たる地位を確立すべきだ。

 急速なデジタル化を背景に半導体の需要が世界的に急増し、半導体不足が自動車生産にも影を落としている。日本としても他人事では済まされない。

半導体産業へ財政支援を

 1980年代後半、日本の半導体産業は世界シェアの半分を占めていたが、現在のシェアは10%程度。一方、半導体の製造に欠かせない素材や製造装置では、日本のメーカーの存在感が目立つ。

 米欧中各国が半導体産業に兆円単位の巨額投資を表明する中、「日の丸半導体」時代を取り戻すには、民間の力だけでは限界がある。製造設備に多額の投資を継続的に行う必要があるためで、半導体業界への政府の財政支援が欠かせない。