電力需給逼迫 原発の活用を
経済産業省は今夏の電力需給について「ここ数年で最も厳しい」との見通しを公表した。採算の悪化した古い火力発電所の休廃止が相次いでいることなどが要因で、今度の冬も含めて需給が逼迫(ひっぱく)する恐れがある。
夏や冬に電力の供給が止まれば、生命や健康に関わる事態となる。政府や電力会社は電力の安定供給に尽力しなければならない。
予備率が3%近くに低下
経産省が示した見通しでは、今夏が10年に1度の猛暑となった場合、北海道と沖縄を除く各地域で電力供給の余力を示す予備率は7月に3・7%まで低下する。8月も多くの地域で3・8%と、安定供給に最低限必要な3%に近づくという。
さらに今度の冬が10年に1度の厳寒となった場合、必要な対策を取らなければ、東京電力管内の予備率は1~2月にマイナスとなり、電力が不足する可能性があるとの見通しを示した。
需給逼迫の要因は、老朽化した火力発電設備の相次ぐ休止や廃止だ。2021年度は、20年度夏時点に比べて火力発電の6%に相当する計680万㌔㍗分が減る見通しだという。
経産省は事業者への省エネ協力要請などを通じて安定した電力を確保する方針だ。このほか、今年1月に火力発電の燃料である液化天然ガス(LNG)の在庫減少により電力需給が逼迫したことを踏まえ、燃料確保の徹底を大手電力に求める。
しかし、こうした対症療法的なやり方では、今年の夏や冬を乗り切れたとしても、今後電力需給の逼迫が繰り返されることにもなりかねない。電力供給を安定させるには、やはり「重要なベースロード電源」である原発の再稼働を進めることが欠かせない。
東電福島第1原発事故から10年が経過したが、地元住民の同意を得て再稼働した原発は9基にとどまる。2018年9月の北海道地震では、北海道電力苫東厚真火力発電所が停止し、道内全域が停電した。この時に泊原発が稼働していれば大規模停電は防げたとの指摘もある。電力の安定供給に向け、原発再稼働に対する国民の理解を広げていくことが求められる。
再生可能エネルギーの活用推進も重要だが、発電量が天候に左右されやすく、発電コストも高いのが難点だ。今年1月の電力需給逼迫の原因の一つに、寒波で雪が降り続いたことで太陽光発電の発電量が低下したことが挙げられる。
平地の少ない日本では、太陽光発電の立地に適した場所は限られる。資源の大半を輸入に頼る日本にとって、電源の多様化を図ることは重要課題だ。
脆弱さなくす計画を
政府は現在、新たな電源構成を含めた次期エネルギー基本計画の検討を進めている。現行計画では、30年度の電源構成目標を火力56%、再エネ22~24%、原発20~22%としていたが、新たな計画では再エネを3割台後半に引き上げる一方、原発は引き続き2割程度とする方向だ。
ただ、現時点で再エネの割合を大きくすることには疑問が残る。電力供給体制の脆弱(ぜいじゃく)さをなくしていくには、もっと原発を活用すべきだ。